天気の話題は、いつの時代も会話の入り口です。エアコンも天気予報もなかった時代、人々は空模様に暮らしを左右されながら、雨や風から多くの教訓をくみ取ってきました。今回は、天気や自然にまつわることわざ・慣用表現を6つ紹介します。ビジネスシーンでよく聞くあの言葉も登場しますよ。
風が吹けば桶屋が儲かる
一見まったく関係のない出来事が、めぐりめぐって思わぬところに影響を及ぼす、という意味です。江戸時代の文芸作品に登場する理屈が広まったものとされています。その理屈とは——風が吹くと砂ぼこりが舞い、目を悪くする人が増える。目の不自由な人は三味線で生計を立てることが多かったので三味線が売れる。三味線の胴には猫の皮が使われるので猫が減る。猫が減ると鼠が増え、鼠が桶をかじるので、桶屋が儲かる——という、なんとも回りくどい連鎖です。現代では「理屈がこじつけっぽい」という皮肉と、「経済は思わぬ形でつながっている」という真面目な文脈、両方で使われます。
雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)
軒先から落ちる雨のしずくも、長い年月同じ場所に落ち続ければ、硬い石に穴をあける。小さな努力も根気よく続ければ、やがて大きな成果になる、という意味です。中国の古典に由来するという説があります。一滴の雨垂れは無力でも、続ければ石に勝つ。コツコツ型の人を励ますことわざとして、受験や語学学習の文脈でよく引用されます。「継続は力なり」の、より詩的な言い換えとして覚えておきたい言葉です。
台風一過(たいふういっか)
台風が通り過ぎた後、うそのように晴れ渡ること。転じて、騒動が収まって平穏が戻ることのたとえにも使われます。注意したいのは表記で、「台風一家」と書くのは間違い。子どものころ「台風の家族がやって来る」と思い込んでいた、という人は案外多いようです。「一過」は「さっと通り過ぎること」。騒がしい問題が片づいた翌朝の、あの妙にすっきりした空気感まで含めて表現できる、便利な四字熟語です。
風前の灯火(ふうぜんのともしび)
風にさらされたろうそくの火は、今にも消えそうです。そこから、危険が迫っていて、今にも滅びそうな状態のたとえになりました。「わが社の営業所は統廃合の話が出て、風前の灯火だ」のように使います。電灯のなかった時代、火が消えることは闇に放り出されることでした。この言葉の切迫感は、そうした時代の感覚を引き継いでいます。
雲をつかむよう
話があまりに漠然としていて、とらえどころがないことのたとえです。雲は遠目にはもくもくと形があるのに、近づけばただの霧で、手でつかむことはできません。「雲をつかむような話だが、夢はある」のように、実現可能性の低い構想を評するときに使われます。似た表現の「雲泥の差」(雲と泥ほどの大きな差)と混同しないよう注意しましょう。
五月雨式(さみだれしき)
ビジネスメールの定番「五月雨式に失礼します」の、あの五月雨です。五月雨とは旧暦5月、今の6月ごろに降る長雨、つまり梅雨のこと。だらだらと降り続く梅雨の雨のように、物事が一度に終わらず、断続的に続くことを「五月雨式」と言います。資料を小分けに送るときの枕詞として定着していますが、由来を知ると「梅雨の雨のようにぽつぽつと送ってすみません」という、なかなか風流な詫び言葉だと分かります。
空を見上げる文化が生んだ言葉たち
雨、風、雲、灯火。どれも毎日目にするものばかりですが、ことわざを知っていると、同じ空も少し違って見えてきます。天気の話しかすることがない、なんて言われる雑談も、由来の小ネタを一つ添えれば立派な会話のごちそうになりますよ。
空模様のように毎日変わる出題をお楽しみに。毎日1問のことわざパズル「ヒトコト推理」もどうぞ。