日本語には、色を使った言い回しがたくさんあります。身近な色のイメージが、意味を印象的に伝えてきたのでしょう。今回は色が出てくる慣用句を6つ、由来とともに紹介します。中には、本来の意味を誤解されがちなものもありますよ。
白羽の矢が立つ
多くの人の中から、特別に選び出されることです。 「新プロジェクトのリーダーに白羽の矢が立った」のように使います。
意外なのがその由来です。人身御供(生贄)を求める神が、望む娘の家の屋根に人知れず白羽の矢を立てて印をつけた——という俗説から来ている、と広く紹介されています。一方で、弓矢そのものを神意による選定の道具とみる民俗学の説明もあり、特定の物語だけが由来だと断定はできません。
言葉としては、古くは「多くの中から犠牲者として選び出される」意味で使われ、現在は、よい役目かどうかを問わず「多くの中から特に選び出される」意味でも使われます。
青二才(あおにさい)
経験の浅い若者を、少し見下して言う言葉です。 ここでの「青」は未熟さの色。果実がまだ熟していない状態を「青い」と表すのと同じ発想です。
「二才」は、若者を表す「新背(にいせ)」が変化した語だとする説があります。「青」が未熟の意味を添え、年若く経験の浅い人をあざける、あるいは自分をへりくだって言う言葉になりました。人を評価する言葉なので、他人に向けて使うと角が立ちます。「まだまだ青二才ですが」と自分に使うぶんには、謙遜として気持ちよく響きます。
朱に交われば赤くなる(しゅにまじわればあかくなる)
人は付き合う相手によって、良くも悪くも影響を受ける、という意味です。 朱色の顔料に触れれば、何でも赤く染まってしまうことから来ています。
もともとは悪い方向への影響を戒める文脈で使われることが多い言葉ですが、良い環境に身を置けば良い影響を受ける、という前向きな読み方もできます。「環境が人を作る」という現代的な言い方と、ほぼ同じことを指しています。転職や進学で環境を変えるかどうか迷ったとき、背中を押してくれる一言かもしれません。
腹黒い
心に悪だくみを持っている、陰険で意地が悪い、という意味です。 表面は穏やかそうに見えて、心の中では悪いことを考えている様子を表します。
日本語には「腹を割る」「腹を探る」「肚(はら)が据わる」など、腹を本心に見立てた表現がいくつもあります。ちなみに黒は日本語の比喩では悪事や不正の色として使われることが多く、「黒幕」「腹黒い」「白黒つける」など、白と対にして善悪を示す組み合わせが目立ちます。
黄色い声
女性や子どもの、甲高い声のことです。 「黄色い声援が飛ぶ」のように使います。
なぜ「黄色」なのかは、はっきりしていません。仏教の声明(しょうみょう)で音の高低を色で示したことに結びつける説などがありますが、定説とはいえません。由来が確かでないこと自体も、言葉のおもしろさの一つです。
声という耳で聞くものを、目で見る色で表す。この感覚は日本語だけのものではなく、英語でも音を「明るい」「暗い」と言い表しますから、人間に共通した感じ方なのかもしれません。
玉虫色(たまむしいろ)
見る角度によって意味が変わる、どちらとも取れる曖昧な決着のことです。 「玉虫色の回答」「玉虫色の決着」のように、政治や交渉のニュースでよく登場します。
玉虫(タマムシ)は、金属のような輝きを持つ美しい昆虫です。この輝きは絵の具のような色素の色ではなく、羽の表面にあるごく細かい構造が光を反射して生まれる「構造色」だと説明されています。見る条件によって表情を変えるその色を、どちらとも取れる答弁になぞらえたわけです。褒め言葉ではありませんが、美しい虫の名を借りているところが、この言葉の味わいでもあります。
色は最短の比喩
白、青、朱、黒、黄、玉虫色。色のイメージを借りることで、慣用句は短い言葉にも豊かな含みを持たせています。 ただし、色の見え方や受け取り方には個人差があります。由来についても、今回見たように、はっきりしないものが少なくありません。身のまわりの言葉に、あといくつ色が隠れているか探してみると、なかなか楽しい発見がありますよ。
ことばの由来をたどるのが好きな方は、毎日1問のことわざパズル「ことばあて」もどうぞ。
出典(2026-08-14 確認)
- タマムシの輝きが「構造色」であることについて … 吉岡伸也「生物がもつ多層膜構造と構造色」『色材協会誌』89巻2号(2016年) J-STAGE
- 色の見え方の個人差について … 日本眼科医会「色覚関連情報」
語源・由来については、引用できる一次資料を特定できませんでした。 白羽の矢が立つ/青二才/朱に交われば赤くなる/腹黒い/黄色い声/玉虫色のいずれについても、由来を裏づける資料を改めて探しましたが(2026-08-14)、確かなものを見つけられていません。本文の由来の説明は、広く紹介されている説を「諸説あるうちの一つ」として紹介したものです。とくに「黄色い声」を仏教の声明に結びつける説は、広く紹介されてはいるものの、こちらでは裏づけを確認できていません。
確かめられないことを確かめたように書かないのが、この記事の方針です。新たに信頼できる資料を確認できた場合は、この欄を更新します。