備蓄の話をするとき、話題になるのはたいてい非常食です。缶詰、レトルト、水。棚に並べておく食べものです。
けれど停電が起きたとき、目の前にあるのは非常食だけではありません。冷蔵庫には、その日買ってきた肉も、作りおきのおかずも、子どものアイスも入っています。 停電の直後にまず心配になるのは、こちらのほうではないでしょうか。
停電は、地震だけでなく台風や大雪でも起こります。数時間で戻ることもあれば、数日続くこともあります。そのあいだ冷蔵庫とどう付き合うか。手順は3つです。
1. とにかく、開けない
いちばん大事なことは、いちばん地味です。扉を開けないこと。
農林水産省は、ふだんの冷蔵庫の使い方についてこう書いています。
長時間開けっ放しにしたり何度も開け閉めしたりすると、外気によって庫内の温度が上昇してしまいます。
電気が来ているときでさえ、こうです。止まっているあいだは、逃げた冷気が戻ってきません。「何が入っていたかな」と確認のために開ける——その一回が、庫内の温度を押し上げます。
では、何時間もつのか。気になるところですが、これは冷蔵庫の機種や中身の量、部屋の暑さで変わります。確認できた範囲では、公的機関の資料に「何時間」という具体的な数字を特定できませんでした。時間で安心するのではなく、開ける回数を減らすこと。そちらのほうが確かです。
停電したら、家族に一言伝えておくとよいと思います。「冷蔵庫は開けないで」と。子どもがいる家では、この一言が効きます。
2. 長引くときは、一度だけ保冷方法を切り替える
停電直後は、冷蔵庫と冷凍庫の扉をできるだけ閉じたままにします。切り替えを考えるのは、停電が長引く見込みになってからです。
警視庁は、停電で冷蔵庫が止まったときの工夫として、次のように紹介しています。
冷凍庫にあるものを冷蔵庫の上の段に移動して、冷蔵庫の下の段に冷やしたい食品を移せば、その冷気で下の段の食品をしばらく保冷することができます
凍った食品が、そのまま保冷剤の代わりになるという考え方です。和歌山県印南町の防災情報でも、冷気は下に向かって流れるため、上に置くことで庫内にいきわたると説明されています。
ただし、冷凍庫の中身をすべて移すのは避けてください。 米国FDAは、扉を閉めたままなら、いっぱいに詰まった冷凍庫は約48時間(半分なら約24時間)温度を保つとしています。全部出してしまうと、そのまま置いておけば長くもったはずのものまで早く解けてしまいます。移すのは、凍らせた飲料や保冷剤、早めに使う冷凍食品を中心に、一度に素早く。そのあとは開閉を減らします。どこまで移すかは、停電の見込み時間、庫内の温度、食品の量、クーラーボックスや氷があるかで決めます。
同じく警視庁は、こうも添えています。
水滴で冷蔵庫の中が水浸しにならないように、新聞紙を敷いたりして下さい
溶けはじめると、思った以上に水が出ます。新聞紙を一枚敷いておくだけで、あとの片づけがずいぶん楽になります。
このとき気をつけたいのが、肉や魚から出る汁(ドリップ)です。冷凍の肉や魚を移すときは、汁が漏れない袋や容器に入れ、ほかの食品にドリップがかからない位置に置いてください。 新聞紙は、食品に直接触れないよう、容器の下などに敷いて使います。
なお台風のように、来ることが前もって分かる災害もあります。冷凍可能と表示された容器や保冷剤を、製品の表示に従って凍らせておけば、そのまま保冷に使えます。凍らせた飲料は、とけたあと飲み水にもなります。ペットボトルを凍らせる場合は、容器や飲料のメーカーが冷凍可としているものだけにしてください。すべてのペットボトルが冷凍に対応しているわけではなく、中身がふくらんで変形したり、破れたりすることがあります。天気予報で進路を知った日にやっておける、数少ない準備のひとつです。
3. 電気が戻ったら、食べられるかを見きわめる
いちばん判断に迷うのが、ここです。
厚生労働省は、家庭での食中毒予防の目安として、冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫はマイナス15℃以下と示しています。ただしこれは、ふだんの庫内をどう保つかの目安であって、停電のあとに食べられるかどうかを決める基準ではありません。
判断のよりどころになるのは、時間と温度です。米国FDA(食品医薬品局)は、扉を開けなければ冷蔵庫は約4時間冷たさを保つ目安とし、肉・魚・牛乳・卵・作りおきなどの傷みやすい要冷蔵食品が華氏40度(約4℃)を超える状態で4時間以上続いた場合は廃棄するよう案内しています。冷凍食品は、氷の結晶が残っているか華氏40度(約4℃)以下なら、再冷凍または調理できるとしています。
これは米国の案内ですが、時間と温度がはっきりしているぶん、判断に使えます。機種や室温でも変わるので、時間だけで安全と決めず、温度計・食品表示・お住まいの自治体の案内を合わせて考えてください。冷蔵庫用の温度計をひとつ備えておくと、この判断がぐっと楽になります。
とくに気をつけたいのは、肉や魚、そのドリップ(汁)が触れたもの、作りおきのおかず、卵を使った料理です。加熱については、厚生労働省が中心部の温度75℃で1分間以上を目安に挙げています。ただし、加熱すればどんな状態のものでも食べられるようになる、という意味ではありません。
判断に迷ったときの基準は、ひとつだけで十分です。迷ったら、食べない。 においや見た目に変化がなくても、です。停電のあとに体調を崩すと、病院も薬局も混み合っているときに動けなくなります。
今日できること
- 停電したら開けない、と家族で決めておく。冷蔵庫の扉に貼り紙をしておくのもよい方法です
- 冷凍庫に、保冷剤か、冷凍可の表示がある容器で凍らせた飲料を1〜2本入れておく。ペットボトルは冷凍可としているものだけにします。ふだんは場所ふさぎですが、いざというときは保冷剤になります
- 冷蔵庫用・冷凍庫用の温度計をひとつ備えておく。電気が戻ったとき、食べられるかどうかの判断がしやすくなります
- 台風が近づいたら、冷蔵庫の中身を減らしておく。食べきる、使いきる、それだけで悩む量が減ります
- 新聞紙を数枚、台所の取り出しやすい場所に置いておく
冷蔵庫の中身は、備蓄リストには載りません。けれど停電した日、家族が最初に手を伸ばすのは、たぶんそこです。非常食を買い足す前に、いま冷蔵庫にあるものをどう守るかを決めておく。 それも立派な備えだと思います。
出典
- 農林水産省「冷蔵庫のかしこい使い方~知ってお得な食品の保存~」 maff.go.jp
- 警視庁「停電で冷蔵庫が止まったときは」 keishicho.metro.tokyo.lg.jp
- 和歌山県印南町「【防災まめ知識 7月】台風などの停電の備え~家庭でできる簡単な対策~」 town.wakayama-inami.lg.jp
- 米国食品医薬品局(FDA)「Food and Water Safety During Power Outages and Floods」(扉を開けなければ冷蔵庫は約4時間、満杯の冷凍庫は約48時間・半分なら約24時間保つこと、要冷蔵の傷みやすい食品が華氏40度を超えて4時間以上なら廃棄すること、氷の結晶が残るか華氏40度以下なら再冷凍・調理できること。米国の公的機関による案内です。 2026年8月28日 確認) fda.gov
- 厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」 mhlw.go.jp