台所の隅に消火器が置いてある。でも一度も使ったことはないし、いつ買ったかも思い出せない。——防災グッズのなかで、消火器はいちばん「持っているだけ」になりやすい道具かもしれません。

東京消防庁によると、令和6年中、消火器具を使用した火災の奏効率は7割以上でした(速報値)。ただしこれは、消火器具の設置が法令で義務付けられた建物での火災を比べたもので、「消火器具」には消火器と簡易消火具が含まれます。消火器があっても「使用の要なし」だった火災は除かれており、一般の住宅だけを対象にした数字ではありません。それでも、火が小さいうちに適切に使えば被害を減らせることは読み取れます。

まず大声で知らせ、119番する

火災を見つけたら、焦らず落ち着いて「火事だ!」と大声で周囲に知らせ、早めに119番通報します。近くに人がいれば通報を頼み、自分は逃げ道を確保します。消火器を使うのは、安全が確保でき、火がまだ小さく、すぐ避難できるときに限ります。消防庁の教材も、一人で消火しようとせず、みんなで協力することが大切だとしています。

初期消火の上限目安は、炎が天井に達するまで

次に覚えておきたいのは、消すのをやめる線引きです。

総務省消防庁は、一般に初期消火が可能なのは天井に火がまわるまでで、天井に火が燃え移ったら速やかに逃げるよう案内しています。

ただし、これは「天井に届くまでは安全」という意味ではありません。消防庁の住宅防火の資料は、炎が天井に達したときに加えて、煙が充満してきたとき、初期消火に失敗したときも、危ないと判断してすばやく避難するとしています。熱や煙で危険を感じたとき、逃げ道を保てないときも同じです。消火にこだわって避難の時機を失わないことが最優先で、服装や持ち物にこだわらずその場を離れる。これが公的機関の一貫した案内です。

動作は3つだけ

消火器の使い方そのものは単純で、消防庁の説明では次の3つの動作です。

  1. 安全栓を引き抜く
  2. ホースをはずし、火元に向ける
  3. レバーを強くにぎる

炎の先ではなく火の根元をねらい、ほうきで掃くように左右に動かすのがこつです。室内では、出入り口を背にして立ち、自分の逃げ道をふさがない位置から放射します。

放射できる時間と距離は製品によって違い、本体に表示があります。いざというときに読む余裕はないので、平時に本体の表示を確かめておくと、実際の場面での判断が変わります。地域の防火防災訓練や防災館で、実際に消火器を操作できる機会があれば、一度体験しておくとなお確実です。

天ぷら油には、近づきすぎない

台所で多い天ぷら油の火災には、注意点が2つあります。

ひとつは、水をかけないこと。油が飛び散って火が広がり、やけどの危険があります。もうひとつは、消火器を近づけすぎないこと。消防庁は、放射する距離が近すぎると薬剤の勢いで油が飛び散る場合があるとして、4〜5メートル程度離れたところから放射し、徐々に近づくよう案内しています。放射距離は製品によって違うので本体の表示も確かめたうえで、近づきすぎない、鍋の真上から吹きつけない、と覚えておいてください。

住宅用消火器は、使用期限を確かめて交換する

家庭向けに売られている住宅用消火器は、ホースのないものもあって軽く、火元をねらいやすい形になっています。業務用と大きく違うのは、消火薬剤の詰め替えや消火器内部の点検が不要とされている点です。そのかわり使用期限があるので、期限に応じた交換が必要になります。使ったあとの扱いや異常があったときの相談先は、製品の表示やメーカーの案内を確かめてください。

その期限は製品に表示がありますが、東京消防庁は住宅用消火器について「使用期限(主なメーカーは5年)が定められています」と説明しています。10年前に買ったものが台所にあるなら、まず表示を確かめてみてください。

確認は買ったときの一度きりではありません。消防庁は、使用期限、安全ピン、キャップのゆるみ、容器のさびや変形、ホースの詰まりやひび割れ、圧力ゲージの針を定期的に確かめるよう案内しています。異常のある消火器は破裂してけがをするおそれがあるため絶対に使わず、購入した店や消火器メーカーに相談します。

置き場所は、誰もが見やすく取り出しやすいところ。消防庁は、玄関、階段近くの邪魔にならない場所、居間や寝室の目につくところ、台所なら入口など火の気の近いところを例に挙げています。火元のすぐ横に置くと、火災のときに取りに行けないことがあります。火に近づかずに手が届く位置か、置いてある場所を一度見直してみてください。湿気の多い場所や日の当たる場所は避け、倒れないように置きます。棚の奥にしまい込むと、必要なときに取り出せません。

捨て方だけは、先に調べておく

見落としやすいのが処分です。消火器は一般廃棄物として出せません。消防庁は、販売店などの「特定窓口」に持ち込む、指定引取場所に持ち込む、ゆうパックで回収してもらう、という3つの方法を案内しています。

期限切れに気づいてから調べ始めると、そのまま何年も置きっぱなしになりがちです。買い替えを考えるときは、新しい1本を選ぶのと同時に、古い1本の行き先も決めておくと片づきます。

消火器は、使う日が来ないほうがいい道具です。それでも、天井に火が届いたら消すのをやめる——その一点だけは、家族で共有しておく価値があります。


出典

  • 総務省消防庁「消火器の正しい使い方」(安全栓を引き抜く/ホースをはずし火元に向ける/レバーを強くにぎるの3手順) fdma.go.jp
  • 総務省消防庁 防災危機管理eカレッジ「1.初期消火」(一般に初期消火が可能なのは天井に火がまわるまで・天井に火が燃え移ったら速やかに避難、大声で周りに知らせる・一人での消火活動を考えない、放射時間や放射距離は本体に表示、火の根元をねらい手前からほうきで掃くように放射、室内では逃げ道を確保し出入り口を背にする、天ぷら油火災は4〜5メートル程度離れて放射し徐々に近づく・水をかけない、使用期限/安全ピン/キャップ/さびや変形/ホース/圧力ゲージの定期確認・異常を発見した場合は絶対に使用しない・点検や処分は購入店やメーカーへ、設置場所は台所の入口など火の気の近いところ・湿気の多い所は避ける) fdma.go.jp
  • 総務省消防庁「住宅用消火器」(ホースが無いものもあり軽量、消火薬剤の詰め替えや消火器内部の点検は不要・使用期限があるので定期的な交換は必要、一般廃棄物として出せない・特定窓口/指定引取場所/ゆうパック回収の3方法) fdma.go.jp
  • 総務省消防庁「住宅防火 いのちを守る7つのポイント」(令和3年春季全国火災予防運動実施要綱 別紙1)(火災の初期の段階で消火する/危ないと判断したらすばやく避難する=火炎が天井に達した、煙が充満、初期消火に失敗した等) fdma.go.jp
  • 東京消防庁「備えて安心!わが家の防火対策」(「住宅用消火器には使用期限(主なメーカーは5年)が定められています」、誰もが見やすく使いやすい場所に置く・湿気や直射日光を避ける・転倒しないように置く) tfd.metro.tokyo.lg.jp
  • 東京消防庁「9.万が一に備え、消火器を設置し使い方を覚えましょう。」(消火器具を使用した火災の奏効率は令和6年中で7割以上、初期消火の限界は炎が天井に達するまで、「火事だ!」と大声で周囲に知らせる・早めに119番通報する、地域の防火防災訓練等で実際に消火器を使ってみる) tfd.metro.tokyo.lg.jp
  • 東京消防庁「持っていますか?マイ消火器」(奏効率7割以上の集計条件=消火器具は消火器及び簡易消火具、設置が法令で義務付けられている防火対象物での火災における比較、「使用の要なし」の火災は除く) tfd.metro.tokyo.lg.jp