台風や地震のあと、避難所ではなく自分の車の中で夜を過ごす人がいます。
理由はさまざまです。ペットがいて避難所に入りにくい。小さな子どもの泣き声が気になる。余震が怖くて家に戻れないけれど、避難所は満員だった。どれも、その人にとっては十分な理由です。
ただ、その理由の多くは、平時に調べておけば別の答えが見つかるものでもあります。ペットと一緒に入れる避難所があるか。福祉避難所はどこか。頼れる親戚や知人の家はあるか。市町村が車中泊避難の場所を用意しているか。車中泊を「唯一の選択肢」にしないための下調べは、今日できます。
新潟市は、車中泊避難は長期の避難生活には適さず、「一般的には推奨されない避難方法」と案内したうえで、それでも選ぶ人に向けた注意点をまとめています。一方、やむを得ず車中泊を選ぶ人がいることから、内閣府(防災担当)は「在宅避難者・車中泊避難者等の支援の手引き」を公表し、避難所の外にいる人をどう支えるかを自治体向けに整理しています。
つまり、「よくないから、やめましょう」で終わらせられない現実がある、ということです。ここでは、その夜を少しでも安全にするために確認したいことを、四つに分けて整理します。
1 血のかたまりを作らない
車中泊でいちばん知られたリスクが、エコノミークラス症候群です。
厚生労働省は、血行不良が起こると血液が固まりやすくなり、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがある、と説明しています。飛行機の名前がついていますが、起きる場所は車の中でも同じです。
厚生労働省が挙げている予防は、次の六つです。
- ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う
- 十分にこまめに水分を取る
- アルコールを控える。できれば禁煙する
- ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない
- かかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎを軽くもんだりする
- 眠るときは足をあげる
読むと当たり前に見えますが、災害の夜にいちばん崩れるのが「十分にこまめに水分を取る」です。トイレが遠い、汚れている、暗くて行きたくない——そう思って水を控えるうちに、条件がそろってしまいます。
大切なのは、水分を意図的に控えないことです。トイレの利用先を確かめておくことや、携帯トイレを車に積んでおくことは、水を減らさずに済ませるための備えだと考えてください。
新潟市も、足をあげるか、できるだけ体を水平にすること、適度に水分をとってアルコールは控えること、そして時々、車外に出て歩いたり、体操したりして体を動かすことを挙げています。安全に車の外へ出られるときは定期的に歩き、外へ出られないときも、足首の曲げ伸ばしやかかとの上げ下ろしをこまめに行います。
受診の目安は、厚生労働省が具体的に示しています。歩行時の息切れ、胸の痛み、一時的な意識消失、あるいは片側の足のむくみや痛みなどが出た場合には、早急に医療機関を受診してください。胸痛・呼吸困難・失神があるときは、ためらわず119番を使ってください。
2 一酸化炭素を吸わない
もう一つが一酸化炭素中毒です。
新潟市は、一晩中のアイドリングは避けること、他の車の排気ガスを取り込まないよう距離をとって停めること、こまめに窓やドアを開けて空気を入れ替えることを挙げています。
暑い夜も寒い夜も、エンジンをかけたままにしたくなります。けれど一酸化炭素は色もにおいもなく、眠っていると気づけません。
雪の日は、窓を開けるだけでは足りない
雪でマフラーのまわりがふさがれると、話が変わります。
JAFの実験では、車がボンネットの上まで雪に埋まった状態でエンジンをかけても、マフラー周辺を除雪しておいた場合、車内の一酸化炭素濃度はほとんど上がりませんでした。一方、除雪せずに運転席の窓を5cmほど開けた場合は、風が止むと「2時間で失神」する危険レベルまで濃度が上昇しました。
つまり、窓を開けるだけでは一酸化炭素中毒を防げないことがあります。 降雪・吹雪のときは、できるだけエンジンを切る。やむを得ず使うときも、周囲の安全を確認できる範囲でマフラー周辺を除雪し、また雪でふさがれていないかこまめに確かめてください。
車内・テント内で火を使わない
危ないのは排気ガスだけではありません。カセットこんろ、ガスランタン、アウトドア用こんろ、焚き火台などの燃焼器具を、車内やテント内で使ってはいけません。暖を取る目的でも同じです。
製品評価技術基盤機構(NITE)は、テント内に限らず換気の不十分な場所でたき火や調理などを行うと一酸化炭素濃度が上昇し、中毒にいたるおそれがあるとして、たき火などは必ず屋外の換気のよい場所で行うよう呼びかけています。
3 暑さ・寒さは、車内で耐えない
新潟市は、暑さにはサンシェードなどで日差しを防ぐ、防犯対策を講じたうえで窓やドアを開ける、日中はできるだけ車内にいないようにする。寒さにはウィンドウシェードやカーテンでガラスから伝わる冷気を遮り、シートを敷いて寝袋や保温インナーなどで体を保温する——と案内しています。
ただし、これらはあくまで補助です。新潟市は同じページで、夏の熱中症や冬の低体温症など、身の危険を感じるほどの悪天候に遭遇した場合は、決して無理をせず早めに建物に避難しましょうとも書いています。
車内の温度は短時間で危険な高さ・低さになります。サンシェードや寝袋で乗り切ろうとしないでください。暑さ・寒さで体調を保てないと感じたら、車内にとどまらず、空調のある安全な建物へ移ることが先です。
4 停める場所を選び、そこにいると伝える
四つめは、そもそもどこに停めるかです。浸水のおそれがある場所、川や斜面のそば、崩れそうな建物の隣は避けます。
そのうえで、自治体が開設・指定した車中泊避難の場所があるかを確認してください。 内閣府の検討資料では、指定避難所の駐車スペース、大規模駐車場や都市公園を活用した車中泊避難者用のスペース、道の駅などの駐車スペースが想定される場所として挙げられ、車路の確保や駐車の区分けが要件に含まれています。
裏を返せば、避難所の駐車場がいつでも車中泊のために開放されるとは限りません。無断で停めると、緊急車両や、徒歩で避難してくる人の通り道をふさぐおそれがあります。現地の誘導、駐車の区分け、避難情報に従ってください。
そして、意外に抜けやすいのが「そこにいることを、市町村に知らせる」ことです。避難所の名簿に載らないと、支援する側から居場所が見えません。受付や登録のしかたは、避難所の受付、自治体の窓口、地域の名簿、アプリなど、地域によって異なります。自治体が案内する方法で、居場所・人数・健康状態・必要な支援を伝えてください。
なお新潟市は、高齢者・妊産婦・乳幼児・持病がある方は車中泊避難で体調を崩す可能性が高いとして、安全な場所にいる親戚や知人の家への避難も事前に検討するよう呼びかけています。「そのときになったら考える」では間に合いません。元気なうちに一度、相手のいる話として決めておくことが、車中泊を選ばずに済ませるいちばん確実な備えです。
今日のうちにできること
- 携帯トイレ・水・防寒や暑さ対策の品を、人数・日数・季節に合わせた量で車に用意する(積みっぱなしにせず、期限と状態をときどき確かめる)
- 日よけ(サンシェード)と寝具を、人数分そろえておく
- 住んでいる市町村に、車中泊避難の場所や受付方法の案内があるかを調べておく
- ペットと一緒に入れる避難所、福祉避難所、頼れる親戚・知人の家を、先に確かめて一言伝えておく
避難のしかたは、災害の種類、道路の状況、自治体が出す避難情報によって変わります。新潟市は「災害発生時は、徒歩での避難が原則」と案内していますが、車での移動が渋滞や事故を招く場合もあるため、原則と例外は住んでいる地域の防災計画で確かめておいてください。
車中泊は、その原則を選べなかったときの次善の手にすぎません。それでも、次善の手を少しだけ安全にしておくことはできます。
出典
- 厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」(「血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります」および予防6項目を確認。2026年9月7日 確認) mhlw.go.jp
- 厚生労働省「深部静脈血栓症/肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)について」(受診の目安として「歩行時の息切れ、胸の痛み、一時的な意識消失、あるいは片側の足のむくみや痛みなどが出現した場合には、早急に医療機関を受診してください」を確認。2026年9月7日 確認) mhlw.go.jp
- 新潟市「災害時の車中泊避難について」(車中泊避難を「一般的には推奨されない避難方法」と説明。エコノミークラス症候群対策、一酸化炭素中毒対策、暑さ寒さ対策と「身の危険を感じるほどの悪天候に遭遇した場合は、決して無理をせず早めに建物に避難しましょう」、リスクが高い方への注意、徒歩避難が原則である旨を確認。2026年9月7日 確認) city.niigata.lg.jp
- 内閣府(防災担当)「在宅避難者・車中泊避難者の支援に関すること」(「在宅避難者・車中泊避難者等の支援の手引き」等を公表していることを確認。2026年9月7日 確認) bousai.go.jp
- 内閣府(防災担当)「車中泊避難を行うためのスペースとして想定される場所及びその要件について」(指定避難所の駐車スペース、大規模駐車場・都市公園、道の駅等が想定される場所であること、車路の確保や駐車の区分けが要件に含まれることを確認。2026年9月7日 確認) bousai.go.jp
- JAF「雪で埋まった場合の一酸化炭素中毒の危険性とは?」(マフラー周辺を除雪した場合と、除雪せず窓を5cm開けた場合の車内一酸化炭素濃度の実験結果、および降雪時はできるだけエンジンを切ることを確認。2026年9月7日 確認) jaf.or.jp
- 製品評価技術基盤機構(NITE)「テント『1. 一酸化炭素中毒に注意』」(「テント内に限らず換気の不十分な場所でたき火や調理などを行うと、一酸化炭素濃度が上昇し、中毒にいたるおそれがあります。たき火などは、必ず屋外の換気のよい場所で行ってください」を確認。2026年9月7日 確認) nite.go.jp