夏の午後、さっきまで晴れていた空が急にかき曇り、ゴロゴロと雷鳴が響く。夕立と雷は夏の風物詩です。天気予報のなかった時代、突然の雷雨は今よりずっと劇的な出来事でした。だからこそ、雷や夕立は多くの言葉を生んでいます。今回は夏の空にまつわる日本語を5つ、由来とともに紹介します。

青天の霹靂(せいてんのへきれき)

思いもよらない出来事が突然起こることのたとえです。「霹靂」とは雷鳴のこと。青く晴れ渡った空に、いきなり雷が鳴り響く驚きを表しています。中国の詩人・陸游が、病床から起き上がって筆を走らせる勢いを「青天に霹靂を飛ばすようだ」と詠んだ詩に由来するという説があります。もとは筆の勢いの形容だったものが、後に「突然の衝撃的な出来事」の意味で定着しました。「課長の突然の退職発表は、まさに青天の霹靂だった」のように使います。

地震雷火事親父(じしんかみなりかじおやじ)

世の中の怖いものを、怖い順に並べた言い回しです。地震、雷、火事までは文句なしの災害ですが、最後に「親父」が入るのがご愛嬌。江戸の町は火事が多く、雷は火事の原因にもなったため、どれも命に関わる脅威でした。なお「親父」は本当は「大山嵐(おおやまじ)」あるいは「大風(おおやじ)」、つまり台風のことだったという説もありますが、確かな根拠はないともされます。雷が「怖いものランキング」の2位に堂々と入っているあたりに、昔の人の実感がこもっています。

夕立は馬の背を分ける

夕立は、馬の背中の右側は濡らしても左側は濡らさない。それほど狭い範囲に、局地的に降るものだ、という意味のことわざです。実際、夏の夕立(気象用語でいう局地的な対流性の雨)は数キロ四方だけで降ることが珍しくなく、「道の向こう側だけ土砂降り」は現代でも起こります。レーダー画像もない時代に、雨雲の性質をここまで正確に言い当てていたことわざがあったとは、先人の観察力に脱帽です。

稲妻(いなずま)はなぜ「稲」なのか

雷の光をなぜ「稲の妻」と書くのでしょうか。昔の日本では、雷が多い年は稲がよく実ると信じられており、雷光が稲に実りをもたらす配偶者(つま)だと考えられたから、という説が有力です。「つま」は古くは夫婦どちらも指した言葉でした。雷の多い年は雨も多く、また空中の窒素が雨に溶けて田に届くため、あながち迷信とも言い切れないという指摘もあります。科学のなかった時代の直感が、思わぬところで現代の知見とつながる、言葉のロマンを感じる語源です。

雲行きが怪しい

空模様が悪くなりそうだ、が本来の意味。転じて、物事の成り行きが悪い方向へ向かいそうな気配を指す慣用句になりました。「会議の雲行きが怪しくなってきた」のように、天気とは無関係の場面で日常的に使われています。夕立の前、入道雲がむくむくと育つのを見て「こりゃ来るぞ」と身構えた感覚が、そのまま人間関係や交渉ごとに転用されたわけです。

おまけ: 雷様はなぜ「へそ」を取るのか

「雷が鳴ったらへそを隠せ」と子どものころ言われませんでしたか。雷様がへそを取りに来る、というあの言い伝えです。由来には、雷雨で気温が急に下がるため、お腹を出して昼寝する子どもに腹を冷やさせない知恵だったという説や、腹を隠してかがむ姿勢が結果的に落雷対策になるからという説があります。迷信の顔をした生活の知恵、というわけです。

空を読む文化

雷を稲の伴侶と呼び、夕立の狭さを馬の背で測り、雷様にへそを差し出さない。夏の空とまじめに付き合ってきた文化だからこそ生まれた言葉たちです。次に遠雷が聞こえたら、防災アプリと一緒に、ことわざも思い出してみてください。


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