以前の記事「意味を間違えやすい日本語7選」が好評だったので、第2弾をお届けします。今回も、日常会話やニュースでよく見かけるのに、本来の意味が誤解されがちな言葉を5つ。いくつかは、文化庁の「国語に関する世論調査」でも取り上げられてきた言葉です。
御の字(おんのじ)
「今回の条件は御の字だ」と言われたら、満足しているのでしょうか、妥協しているのでしょうか。本来の意味は「大いにありがたい」。十分に満足だ、という気持ちを表す言葉です。「御」の字を付けて敬いたいほど結構なものだ、というのが語源とされ、江戸時代の遊里で生まれた言葉だという説があります。ところが現代では「一応納得できる、まあまあ」という妥協のニュアンスで受け取る人が多数派になりつつあります。本来は「文句なし」、誤解では「ぎりぎり合格」。かなりの温度差があるので、大事な交渉では言い換えた方が安全かもしれません。
潮時(しおどき)
「そろそろ潮時だ」と聞くと、「あきらめて撤退するタイミング」を思い浮かべませんか。しかし本来の意味は「物事を行うのにちょうど良い時機」。漁師が潮の満ち引きを見て、船を出す絶好のタイミングを計ったことに由来します。つまり潮時は、始める場面にも終える場面にも使えます。「終えるのにちょうどよい時」という文脈で使われ続けた結果、今では「引き際」の意味で受け取られることも多くなりました。どちらが誤りというより、前後の文脈を確かめるのが安全です。「新規参入の潮時を見極める」という使い方も、本来の姿のひとつです。
なし崩し(なしくずし)
「なし崩しに規則が緩んだ」のように、「うやむやのうちに、ずるずると」という悪い意味で使われがちです。しかし漢字で書くと「済し崩し」。借金を少しずつ「済(な)す」、つまり少しずつ返済していくことが本来の意味で、そこから「物事を少しずつ片付けていく」という、むしろ堅実な言葉でした。計画的な分割返済が語源なのに、いつの間にか「だらしなく既成事実化する」イメージに乗っ取られてしまった、気の毒な言葉です。
檄を飛ばす(げきをとばす)
監督が選手を怒鳴って発破をかける場面で「檄を飛ばした」と報じられがちですが、本来の「檄」は、自分の主張を記して同志を集める文書のこと。昔の中国で、挙兵の際に各地へ檄文を送って決起を促したことに由来します。つまり「檄を飛ばす」は、考えを広く知らせて行動を呼びかけることであって、「叱咤する」「気合いを入れる」こととは本来別物です。「激を飛ばす」と書くのは誤りで、この表記違いも誤解を後押ししたという指摘があります。
失笑(しっしょう)
「失笑を買う」と聞くと、「あきれて笑いも出ない、冷笑される」と思われがちですが、本来の「失笑」は、こらえきれずに思わず噴き出してしまうこと。「笑いを失う」のではなく「笑いを漏らしてしまう」のです。「失言」が言葉をうっかり漏らすことであるのと似た成り立ちだ、という説明を見かけます。ですから本来の「失笑を買う」は、おかしなことをして思わず笑われてしまう、という意味になります。あきれられたのか、笑わせてしまったのか。文脈の読み違いにご用心。
「本来の意味」は会話の保険
これらの言葉は、誤用の側がすでに多数派になりつつあるものばかりです。辞書によっては新しい意味を併記し始めているものもあり、「どちらが絶対に正しい」と断じにくい過渡期にあります。だからこそ、相手がどちらの意味で使っているかを見極める力が、聞き手としての保険になります。言葉のずれに気づけると、会話の解像度はぐっと上がりますよ。
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出典
- 文化庁「国語に関する世論調査」平成19年度(「檄を飛ばす」を調査対象としている) bunka.go.jp
- 文化庁「国語に関する世論調査」平成20年度(「御の字」を調査対象としている) bunka.go.jp
- ※ 「潮時」「なし崩し」「失笑」の意味・用法は、国語辞典類に広く共通して記載されている範囲の説明にとどめています。特定の辞典の記述を引用したものではありません。
- ※ 次の説明については、当社で確認できた範囲では一次資料を特定できませんでした。本文でも「〜とされます」「〜という説があります」と書き、断定を避けています。
- 「潮時」の、漁師が潮の満ち引きを見て船を出したという語源
- 「なし崩し」が借金の返済から一般化したという説明
- 「御の字」が江戸時代の遊里で生まれたという説
- 辞書が新しい意味を併記し始めているという説明 (2026年7月24日 確認)
- ※ 各語の意味・用法は、国語辞典類に広く共通して記載されている範囲の説明にとどめています。 「潮時」「なし崩し」「失笑」については、当社で確認できた範囲では同調査の対象年度を特定できなかったため、 本文でも「いくつかは」と限定して書いています。(2026年7月23日 確認)