日本語の慣用句には、体の部位を使ったものが驚くほどたくさんあります。感情や状況を、誰もが持っている「体」にたとえるので、説明抜きで感覚が伝わるのです。今回は、体の部位を使った慣用句を6つ選び、その意味と、言葉から浮かぶイメージを紹介します。
肩の荷が下りる
責任や負担から解放されて、ほっとすること。「大きな案件が終わって、やっと肩の荷が下りた」のように使います。「荷」を責任や負担にたとえ、それが肩から下りるように気持ちが楽になることを表す言い方です。辞典では1927年(久保田万太郎『大寺学校』)の用例が挙げられていますが、詳しい成立過程までは今回確認できませんでした。
喉から手が出る
欲しくて欲しくてたまらない様子のたとえです。「喉から手が出るほど欲しい人材」のように使います。よく考えるとかなり不気味な絵面ですが、それほど強烈な欲求だということ。欲しさの強さを、喉の奥から手まで伸びるような大げさな姿で表した慣用句です。辞典では1908年(石川啄木『病院の窓』)の用例が確認できますが、詳しい語源は今回確認できませんでした。
目と鼻の先
距離が非常に近いことのたとえです。「駅は目と鼻の先だ」のように使います。文字どおりに読めば、顔の中の目と鼻の近さを思わせる表現です。似た表現に「指呼(しこ)の間」という言葉もあり、こちらは指させば声が届くほどの距離。顔のパーツで測るか、声の届く範囲で測るか。どちらも体が基準の「ものさし言葉」です。
眉唾(まゆつば)
信用できない、怪しい話のことを「眉唾もの」と言います。狐や狸などにだまされないよう眉に唾をつける、という俗信から、だまされないよう用心する意味になったと辞典に説明されています。怪しい儲け話を聞くとき、私たちは今も心の中でそっと眉を湿らせているわけです。
腑に落ちる(ふにおちる)
心から納得できることを「腑に落ちる」、納得できないことを「腑に落ちない」と言います。「腑」とは、はらわた、内臓のこと。誰かの説明が、頭を素通りせず、腹の底までストンと落ちてくる。あの「ストン」という身体感覚を、これほど正確に言い当てた言葉はありません。なお辞典では、現在よく使う肯定形よりも「腑に落ちない」に当たる古い用例が確認できます。
歯に衣着せぬ(はにきぬきせぬ)
遠慮せず、思ったことを率直に言うことのたとえです。「歯に衣着せぬ物言いで人気のコメンテーター」のように使います。「衣(きぬ)」は衣服を指し、「絹」と書くのは誤りです。文字どおりには、歯に覆いを着せない姿を思わせます。率直さは美徳ですが、この慣用句にはどこか「時に人を傷つける鋭さ」への含みもあります。布をまとうか、まとわないか。言葉選びの妙をこれまた言葉で表した、洒落た表現です。
体は最初の辞書
肩で重さを、喉で欲望を、腑で納得を。慣用句をたどると、抽象的な気持ちや状況を、身近な体の感覚で表してきたことが分かります。体の部位の慣用句はまだまだたくさんあります。続編もお楽しみに。
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参考資料
- コトバンク「肩の荷が下りる」 kotobank.jp
- コトバンク「喉から手が出る」 kotobank.jp
- コトバンク「目と鼻の先」 kotobank.jp
- コトバンク「眉に唾をつける」 kotobank.jp
- コトバンク「腑に落ちる」 kotobank.jp
- コトバンク「歯に衣着せぬ」 kotobank.jp
(確認日: 2026-07-28)