秋は台風と長雨の季節です。雨が何日も続いたあと、山ぎわや斜面の近くで起きるのが土砂災害です。

土砂災害には大きく三つの型があります。山腹や川底の石や土砂が一気に押し流される土石流、斜面が急に崩れ落ちるがけ崩れ、地中の滑りやすい層が動き出す地すべりです。

このうち土石流について、国土交通省は「その流れの速さは規模によって異なりますが、時速20〜40kmという速度で一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまいます」と説明しています。人が走って逃げ切ることを前提にできない速さです。

つまり、始まってから走って逃げるという想定は、そもそも成り立ちません。 だからこそ、始まる前に出ておくための材料が必要になります。

国が挙げている前兆現象

国土交通省関東地方整備局の富士川砂防事務所は、三つの型それぞれについて次の前兆を挙げています。

土石流

  • 「山鳴り」といって、山全体がうなっているような音がする
  • 川の流れが濁ったり、流木が混じっている
  • 雨が続いているのに、川の水が減っている

がけ崩れ

  • がけから小石がパラパラと落ちてきた
  • がけに割れ目ができた
  • がけから水が湧き出てきた

地すべり

  • 地面がひび割れたり、一部が陥没あるいは隆起した
  • 井戸水が濁った
  • 池や沼の水の量が急に変化した

気になるのは「雨が続いているのに、川の水が減っている」でしょうか。上流のどこかで土砂が流れをせき止めている可能性があり、それが崩れたときに一気に押し寄せます。雨なのに水が引くという、感覚に反する変化ほど注意したいところです。

同じ資料は、雨そのものの目安として「1時間に20ミリ以上、または降り始めから100ミリ以上の降雨量になったら十分な注意が必要です」とも書いています。ただしこれは富士川流域の地域資料に載っている目安であって、全国一律の避難基準ではありません。この数値に届かなければ安全、という意味ではありません。 実際の判断は、お住まいの自治体の避難情報、後述する土砂キキクル、周囲の異変をあわせて行ってください。

そして、前兆についてもう一つ大事なことがあります。前兆を確かめるために、川や沢、がけ、斜面へ近づいてはいけません。 前兆は避難を決めるための材料であって、見に行って確認するものではありません。安全な場所から異変に気づいたら、周囲にも知らせて避難し、自治体などへ連絡してください。

さらに、大事な但し書きがあります。前兆が必ず現れるとは限りませんし、気づけるとも限りません。 夜間や豪雨のなかでは、音も見た目も分かりません。前兆は「あれば逃げる材料」であって、「なければ安全」という意味ではないのです。

雨の降る前に——自宅の位置を知っておく

前兆が当てにならない場面があるからこそ、雨が降る前にできることの価値が上がります。

自宅や職場が危険な場所かどうかは、土砂災害警戒区域の指定で確認できます。かつては「土砂災害危険箇所」が公表されていましたが、国土交通省は、土砂災害防止法にもとづく区域指定が全国的に一通り完了したため「今後は土砂災害警戒区域を使用することとします」としています。お住まいの都道府県や市区町村のハザードマップで見られます。調べ方はハザードマップの見方にまとめています。

区域に入っている場合は、雨が強まる前に区域の外へ移る「立退き避難」が基本です。そのうえで、自分や家族がどうなったら避難を始めるのか、条件をあらかじめ決めておきます。「様子を見てから決める」ではなく、「早い段階で出る」に寄せておくということです。

雨の最中に見るもの

降り出したあとは、気象庁の「キキクル(危険度分布)」が手がかりになります。土砂災害について、気象庁はキキクルの「警戒」(赤)が警戒レベル3相当、「危険」(紫)が警戒レベル4相当としています。

土砂災害警戒区域にお住まいなら、紫を待たずに赤の段階で構えを変えておきたいところです。気象庁は警戒レベル3相当について、高齢者など避難に時間がかかる人は危険な場所から避難し、その他の人も普段の行動を見合わせ始め、避難の準備をしたり自ら避難の判断をしたりするよう案内しています。前兆に気づいたときや、少しでも危険を感じたときは、色を待たずに安全な場所へ移ってください。警戒レベルそのものの読み方は「警戒レベル4」で危険な場所から全員避難で詳しく扱っています。

外に出られないときの、次善の手

まずは雨が強まる前に、土砂災害警戒区域の外や指定緊急避難場所へ移ることが基本です。

そのうえで、すでに激しい雨や暴風で、外に出るほうがかえって危険という状況もあります。気象庁は、そうして立退き避難ができない場合の待避先として、「頑丈な建物の2階以上の、崖や沢からなるべく離れた部屋で待避してください」と案内しています。

ただし、これはあくまで最後の手段です。「2階に上がれば大丈夫」と決めつけないでください。 建物の丈夫さや土砂の勢いによっては、屋内にいても安全とは限りません。だからこそ、平時のうちにハザードマップで安全な避難先を確かめ、そこへ早めに移ることのほうが確実です。

なお富士川砂防事務所は、土石流から逃げるときは流れに対して直角の方向へ、とも書いています。流れを背にして逃げると追いつかれるためです。

今日のうちにできること

雨の予報を見てから調べ始めると、たいてい間に合いません。晴れている日に、次の三つを済ませておきましょう。

  1. 自宅・職場・実家が土砂災害警戒区域に入っているか、ハザードマップで見る
  2. 入っていたら、区域の外にある避難先と、そこまでの安全な道を確認する。あわせて、どうしても外に出られない緊急時に備え、頑丈な建物の上階で崖や沢から離れた部屋も見ておく
  3. 前兆の三つの型を、家族で一度だけ声に出して読んでおく

音や見た目の記憶は、頭で覚えた知識より早く働くことがあります。一度声に出しておくだけで、その日の判断が変わるかもしれません。くり返しになりますが、前兆に気づいたときにすることは、確かめに行くことではなく、離れることです。

出典・確認資料(2026年8月21日確認。気象庁の2件は8月22日に確認)

  • 国土交通省「砂防:土石流とその対策」 mlit.go.jp — 土石流の定義「山腹、川底の石や土砂が長雨や集中豪雨などによって一気に下流へと押し流されるものをいいます」/速さ「その流れの速さは規模によって異なりますが、時速20〜40kmという速度で一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまいます」
  • 国土交通省 関東地方整備局 富士川砂防事務所「災害の前兆と避難のしかた」 ktr.mlit.go.jp — 本文に挙げた土石流・がけ崩れ・地すべりの前兆現象/雨の目安「1時間に20ミリ以上、または降り始めから100ミリ以上の降雨量になったら十分な注意が必要です」/土石流の流れに対して直角に逃げること
  • 国土交通省「砂防:土砂災害危険箇所」 mlit.go.jp — 「土砂災害防止法に引き継がれ、これに基づき土砂災害警戒区域等の指定・公表が進められ、全国的に区域指定が一通り完了したため、今後は土砂災害警戒区域を使用することとします」
  • 気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」 jma.go.jp — 土砂災害のキキクルについて、「危険」(紫)が警戒レベル4相当、「警戒」(赤)が警戒レベル3相当であること/警戒レベル3相当のときの行動「自治体からの高齢者等避難の発令に留意するとともに、高齢者等以外の方も普段の行動を見合わせ始めたり、キキクルや河川の水位情報等を用いて避難の準備をしたり自ら避難の判断をしたりしてください」
  • 気象庁「土砂災害に関する防災気象情報の活用」 jma.go.jp — 立退き避難ができない場合の待避先「頑丈な建物の2階以上の、崖や沢からなるべく離れた部屋で待避してください」

土砂災害に関する防災気象情報は、2026年5月29日から新しい体系での運用が始まっています。本記事では、名称が変わりうる情報名ではなく、気象庁のページで確認できるキキクルの色と警戒レベル相当の対応にもとづいて書いています。個別の情報名の新旧については、こちらで一次資料の本文を機械で読み取れなかったため、この記事では扱っていません。

参考にした記事


雨の季節の備えはそなえ計算室でも確認できます。