地震の備えの話で、エレベーターはあまり主役になりません。ですが、被害の想定を読むと、無視できない数字が出てきます。

内閣府に掲載された東京都港区の取り組み紹介では、都心南部直下地震(冬の夕方、風速3m/s、マグニチュード7.3)が起きたとき、都内全域で22,426台、港区内だけで1,357台が「閉じ込めにつながり得る」停止をすると想定されています。

これは閉じ込められる人数や実際の閉じ込め台数ではありませんが、多数の停止が同時に起こり得ることを示す数字です。

揺れを感じたら、行き先の階だけを押さない

警視庁が案内している行動は、とてもはっきりしています。

全ての階のボタンを押す

自分が降りたい階だけを押していると、そこへ着く前に止まってしまえば、かごの中に取り残されます。揺れを感じたら、すべての階のボタンを押し、停止して扉が開いた階で速やかに降ります。

ただし、ボタンを押せば必ず扉が開くとは限りません。装置の作動状況や、地震・停電・故障の具合によっては、停止したまま閉じ込められることもあります。その場合は、非常ボタンやインターホンで外部へ連絡します。

警視庁は続けて「落ち着いて行動しましょう」とも書いています。数秒のうちの判断なので、知っているかどうかで動きが変わります。

閉じ込められたら、まずインターホン

それでも閉じ込められた場合について、警視庁は次の3つを挙げています。

  • 非常ボタン・インターホンを押す
  • 応答がなければ携帯電話で警察や消防へ通報する
  • 外にいる人に自分の存在を知らせる音を出す

順番に意味があります。インターホンは、建物の管理側や監視センターなど外部へ連絡するための設備なので、まずここを試す。つながらなければ携帯電話へ切り替え、それも難しければ音で知らせる、という並びです。

すぐ助けが来る前提では考えない

国土交通省の資料には、エレベーターの保守事業者について「閉じ込め救出を最優先としつつ」病院などの復旧を進める、という趣旨の記述があります。救出は最優先に扱われるということです。

ただし、大きな地震で多くのエレベーターが同時に停止した場合、保守事業者の対応には時間を要することが見込まれると、内閣府の記事は説明しています。救出は優先されますが、すぐに到着するとは限りません。まずインターホンなどで外部へ連絡し、落ち着いて救助を待つことになります。

港区がエレベーターに配っているのが「防災チェア」「防災キャビネット」と呼ばれるものです。かごの中に置く箱型・いす型の備えで、非常用品が入っています。地震時管制運転装置がついていないエレベーターを優先して配られているとのことです。

同じ記事には、閉じ込めを想定した訓練の内容も紹介されています。揺れたときのかご内の状況を体験する、インターホンで通信してみる、防災チェアに入っている非常用品を確認する。「箱を置いて終わり」にしていないところが参考になります。

「地震時管制運転装置」がついているか

国土交通省のリーフレットは、この装置をこう説明しています。地震のはじめの小さな揺れ(P波)を感知して、大きな揺れ(S波)が届く前にかごを最寄りの階へ停止させ、扉を開ける。それによって閉じ込めを防ぐ、というしくみです。

大事なのは、すべてのエレベーターについているわけではない、という点です。同じリーフレットには、平成17年の千葉県北西部地震や平成23年の東日本大震災を受けてこうした地震対策が義務付けられた一方で、義務付け以前に設置されたエレベーターには、対策を実施する義務はないと書かれています。義務付け以前に設置されたエレベーターでは未設置の場合がありますが、後から改修されていることもあります。表示や設置時期だけで決めつけず、建物の管理者に確認してください。

見分ける手がかりもあります。装置が設置されていることを利用者が分かるよう、「地震時管制運転装置設置済みマーク」で表示する任意の制度です。任意なので、マークがないから未設置とは限りませんが、あれば設置済みの目印になります。

今日、確かめられること

  • ふだん使うエレベーターのかごの中に、「地震時管制運転装置設置済みマーク」の表示があるか見てみる
  • 防災チェア・防災キャビネットのような備えが置かれているか確認する
  • マンションなら管理組合や管理会社、職場なら総務に「うちのエレベーターに地震時管制運転装置はついていますか」と聞いてみる
  • 揺れを感じたら全部の階のボタン、という一点だけ覚えておく

装置の有無や改修については、建物の所有者・管理者と、エレベーターの製造業者や保守点検業者が窓口になります。

エレベーターは、乗っている時間が短いぶん、備えの話から抜け落ちがちです。ですが、閉じ込められている時間は短くありません。全階ボタンとインターホンの使い方を先に知っておくことが、閉じ込めの回避や、閉じ込め後の連絡に役立ちます。


出典

  • 内閣府「広報ぼうさい」No.105「共同住宅の地震発生時のエレベーター閉じ込め対策を強化します」(東京都港区の取組。「都心南部直下地震(冬の夕方、風速3m/s、マグニチュード7.3)が起こった際は、都内全域で22,426台、港区内で1,357台の『閉じ込めにつながり得る』エレベーターの停止が発生する」、エレベーター用防災チェア・防災キャビネットの無償配付、閉じ込め対応訓練の内容。2026年8月23日 確認) bousai.go.jp
  • 警視庁「エレベーター内で地震が起きたら?」(「全ての階のボタンを押す」「落ち着いて行動しましょう」、閉じ込め時の「非常ボタン・インターホンを押す」「応答がなければ携帯電話で警察や消防へ通報する」「外にいる人に自分の存在を知らせる音を出す」。2026年8月23日 確認) keishicho.metro.tokyo.lg.jp
  • 国土交通省 住宅局建築指導課「エレベーターの地震対策」リーフレット(地震時管制運転装置の説明、平成17年千葉県北西部地震・平成23年東日本大震災を受けた義務付けと「義務付け以前に設置されたエレベーターには、対策実施の義務はありません」、安全マークの表示制度。2026年8月23日 確認) mlit.go.jp
  • 国土交通省「建築:昇降機(エレベーター、エスカレーター等)について」(「エレベーター保守事業者においては、閉じ込め救出を最優先としつつ、災害弱者が利用する病院等」の復旧を進める旨の記述。2026年8月23日 確認) mlit.go.jp