平日の昼間に大地震が起きたら、あなたはどこにいるでしょうか。多くの人は職場や学校、外出先です。

そのとき、ほとんどの人が最初に考えるのは「家族のもとへ帰らなければ」でしょう。しかし防災の観点では、大地震の直後に歩いて帰ろうとする行動は、自分にとっても社会にとっても危険とされています。今回は、その理由と職場での備えを整理します。

東京都の条例が定める「むやみに移動を開始しない」

東京都は東日本大震災の教訓を受けて帰宅困難者対策の条例を定め、平成24年3月に制定、平成25年4月に施行しました。この条例が都民に求めている行動原則が、大規模災害の発生時に「むやみに移動を開始しない」ことです。

東京都では、首都直下地震が起きた場合に最大約453万人の帰宅困難者が生じると想定されています(都内。東京都北区の掲載による)。これだけの人が一斉に帰宅を始めれば道路や歩道が混雑し、救助・救援活動等に支障が生じるおそれがあります。助けを待っている人のもとへ救助の手が届きにくくなる——これが一斉帰宅の大きな問題です。

歩いて帰る本人も安全ではありません。余震による落下物の危険や、停電した道路を長時間歩く負担があります。信号も街灯も消えているかもしれません。

まず身の安全を確かめ、そのうえで「とどまる」ための備え

順番が大切です。まず身の安全を確保し、火災・津波・建物の損傷などの危険があれば避難してください。そのうえで安全な職場や施設に待機できる場合に、道路や交通機関の状況が分からないまま、むやみに帰宅を始めないことが大切になります。安全な場所に落ち着いたら、行政の公式情報や施設管理者の指示を確認します。

とどまるとしても、水も食料もない場所で待機はできません。東京都帰宅困難者対策条例は、東京都内の事業者に対し、従業員を施設内に待機させることと、そのための3日分の水・食料等を備蓄することを努力義務として定めています。東京都外にお住まい・お勤めの方は、お住まいの自治体や勤務先の防災計画を確認してください。

まず勤務先に3日分の備蓄があるかを確認しましょう。防災の日の前後は、職場で聞いてみるのに絶好のタイミングです。そのうえで、勤務先の備蓄を補うものとして、自分のデスクやロッカーに個人用の備えを置いておくと安心です。必要な量は、勤務先の備蓄状況や持病などに合わせて考えます。

  • 水と、火を使わずに食べられる食料
  • 歩きやすい靴と靴下(通勤靴がヒールや革靴の人は特に)
  • モバイルバッテリー、常備薬、ウェットティッシュ
  • 冬は室温が下がるおそれがあるため、防寒具も確認しておく

長期保存の非常食は、職場の引き出しに入れておく用途にも向いています。

家族と決めておくこと

とどまる判断ができるかどうかは、家族の安否が分かるかどうかにかかっています。連絡が取れなければ、誰でも家に向かいたくなるからです。

  • 災害用伝言ダイヤル171など、電話がつながらないときの連絡手段を家族で統一しておく(171は体験利用ができます。平時のうちに、使い方と伝言を残す共通の電話番号を家族で確認しておくと安心です)
  • 「お互い無事なら、まず安全な場所にとどまり、行政の情報や勤務先・施設の指示、道路と交通機関の状況を確認してから移動する」とあらかじめ約束しておく
  • 子どもの学校や保育園の引き渡しルールを確認しておく

この約束があるだけで、当日の判断はぐっと楽になります。

家の備えが、外にいる自分を助ける

意外に思われるかもしれませんが、自宅の備蓄が充実しているほど、外にいる自分は落ち着いていられます。家に残る家族が数日しのげると分かっていれば、慌てて帰る理由が減るからです。

わが家の備蓄が何日もつかは「そなえ計算室」で確認できます。職場やロッカーに置いた備蓄の期限は「備蓄めぐり」に登録しておくと、期限が近い順に並び、開いたときに色分けで確認できます。置き場所はメモ欄に書いておけば、「どこに置いたか分からない」も防げます。


出典

  • 東京都防災ホームページ「東京都帰宅困難者対策条例」(条例は平成24年3月制定・平成25年4月施行と記載。「多くの人が帰宅を開始しようとすれば、火災や建物倒壊等により、自ら危険にさらされるだけでなく、発災後に優先して実施しなければならない救助・救援活動等に支障が生じる可能性があります」と記載。2026年9月2日 確認) bousai.metro.tokyo.lg.jp
  • 東京都北区「帰宅困難者対策」(首都直下地震が起こった場合、都内では最大約453万人の帰宅困難者が発生すると想定と記載。東京都帰宅困難者対策条例の概要として「企業等従業員の施設内待機の努力義務化」「企業等従業員の3日分の備蓄(飲料水、食料等)の努力義務化」、条例に基づく周知として「都民は、大規模災害発生時に、むやみに移動を開始しないようにすること」「事業所は、従業員向けの3日分の水、食糧等を備蓄するようにすること」と記載。2026年9月2日 確認) city.kita.lg.jp
  • NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」(171の体験利用ができる期間と使い方を案内。2026年9月2日 確認) ntt-east.co.jp