備蓄の話をすると、水、食料、トイレ、明かり、と並びます。持病の薬は、たいてい最後のほうに出てきます。

けれども水や食料と同じく、持病の薬も被災直後に必要な分が手に入るとは限りません。薬は種類や用量が人ごとに異なるため、平時から服薬情報と手元の備えを確認しておくことが大切です。

処方箋がなくても、渡せる扱いになることがある

意外に思われるかもしれませんが、大きな災害のときには、処方箋がなくても薬局が薬を渡せる場合があります。

令和6年能登半島地震のとき、厚生労働省は都道府県などに宛てた事務連絡で、被災地の患者について次のように示しました。医薬品医療機器等法49条1項が定める「正当な理由」にあたるとして、

医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合において、患者に対し、必要な処方箋医薬品を販売又は授与することが可能であること。

つまり、病院にたどり着けない状況であっても、薬が完全に途切れるとは限らないということです。

ただし、これは災害のたびに自動的に決まっているものではなく、そのときの状況に応じて国から示される一時的な扱いです。「いざとなれば何とかなる」と当てにするものではありません。

また、医療用麻薬や向精神薬には、別の条件が定められています。同じ事務連絡では、医療用麻薬について、薬局が患者の症状等を医師へ連絡し、施用の指示が確認できる場合に交付して差し支えない、とされています。すべての薬が一律に同じ扱いになるわけではありません。

服薬情報を確認できる備えが要る

薬の種類や用法・用量を安全に判断するため、服薬情報を確認できる備えが重要です。能登半島地震の事務連絡では、薬剤服用歴、お薬手帳及びマイナンバーカード等を活用して患者の服薬情報を確認するよう「努めること」とされています。実際に提供できるかどうかは、そのときの災害時の取扱いと、医師・薬剤師の判断によります。

政府広報オンラインも、備えの一つとして常用薬とお薬手帳を挙げ、こう書いています。

お薬手帳やマイナ保険証の使用により、災害時でも常用薬や病気の情報が正確に伝わり、適切な治療が受けられる。

薬の名前は、飲んでいる本人でも正確には言えないものです。「白くて丸いのを朝晩」では、薬剤師も動きようがありません。

紙とデータ、確認手段を複数持っておく

令和6年能登半島地震では、オンライン資格確認等システムの「災害時モード」が使われ、避難先の医療機関や薬局で患者の薬剤情報を確認できた事例が厚生労働省から報告されています。ふだん通っていない避難先近くの医療機関で診療を受けられた例、かかりつけの薬局が営業できず別の薬局で調剤できた例などです。

対象地域で災害時モードが開放され、対応する医療機関・薬局のシステムが使える場合は、マイナンバーカードやお薬手帳を持参できなくても、本人の同意の下で氏名・住所等から情報を確認できることがあります。ただし通信と電気が生きていることが前提になります。逆に紙のお薬手帳は、停電していても読めるかわり、水に濡れたり流されたりすれば使えません。

紙のお薬手帳、更新日入りの控え、電子版お薬手帳やマイナポータルなど、状況の異なる複数の手段を用意しておくと、確認手段を残しやすくなります。

手帳の中身をスマートフォンで撮っておくのは、手帳そのものの代わりではなく、あくまで控えです。撮影日が分かるようにして、処方が変わるたびに撮り直してください。薬が変わったのに古い写真が残っていると、かえって誤解のもとになります。

薬の名称、用法・用量、アレルギー歴・副作用歴、かかりつけ医・薬局の連絡先を、更新日とともに紙にも控えておくと、電池が切れても読めます。

写真を残すときは、端末の画面ロックを設定し、共有アルバムなど第三者から見える場所には保存しません。服薬情報や病名は、機微な医療情報です。家族の情報を預かるときは本人の同意を得て、誰がどの場面で医療者に見せるかも決めておきます。

高齢の家族がいる家では

政府広報オンラインは、高齢者の災害用品として、常用薬とお薬手帳のほかに、補聴器などの補助器具、入れ歯と洗浄剤を挙げています。妊産婦や乳幼児には、母子健康手帳や診察券も挙げられています。

薬だけを考えていると、こうしたものが抜けます。その人がないと困るものは、その人ごとに違うという当たり前のことを、リストにして書き出しておくのが確実です。

今日やっておくこと

  • お薬手帳の最新ページを、撮影日が分かる形でスマートフォンに残す(画面ロックをかけ、共有先には置かない)
  • 薬の名称・用法・用量、アレルギー歴、かかりつけ医と薬局の連絡先を、更新日とともに紙にも控える
  • 予備の薬を何日分用意できるか、どの温度・場所で保管するかを、主治医または薬剤師に相談する
  • 薬は元の包装と表示を保ち、期限と保管状態を定期的に確認する。自己判断で飲み方を変えない
  • 補聴器の電池、入れ歯の洗浄剤など、その人に必要なものを書き出す

薬の残りが少なくなってから慌てないよう、次の受診のときに「災害のときはどうすればいいか」を一度聞いておくのもよい方法です。


出典

  • 厚生労働省医薬局総務課ほか 事務連絡「令和6年能登半島地震に係る医薬品等の取扱いについて」令和6年1月2日(医薬品医療機器等法49条1項の「正当な理由」に該当するものとして、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合において、患者に対し必要な処方箋医薬品を販売又は授与することが可能であること/なお、薬剤服用歴、お薬手帳及びマイナンバーカード等を活用し、患者の服薬情報を確認するよう、努めること/医療用麻薬については、麻薬小売業者等が患者の症状等について麻薬施用者である医師へ連絡し、施用の指示が確認できる場合において、必要な医療用麻薬を施用のため交付することは差し支えないこと。2026年9月3日確認) mhlw.go.jp
  • 政府広報オンライン「【防災特集】ACTION01 災害に事前に備える」(常用薬・お薬手帳の備え/お薬手帳やマイナ保険証の使用により、災害時でも常用薬や病気の情報が正確に伝わり、適切な治療が受けられる/高齢者の災害用品として常用薬・お薬手帳、必要な補助器具(補聴器他)、入れ歯・洗浄剤/妊産婦・乳幼児の災害用品として母子健康手帳・お薬手帳・診察券。2026年8月30日確認) gov-online.go.jp
  • 厚生労働省「避難先の医療機関・薬局で患者の薬剤情報等を活用」(令和6年能登半島地震において、オンライン資格確認等システムの災害時モードを利用して薬剤情報等が災害医療に活用された/普段通っていない避難先近くの医療機関で薬剤情報等を確認して診療、かかりつけ薬局が営業不可能なため営業可能な薬局で確認して調剤などの活用事例/災害時モードは災害救助法適用地域等に対して時限的に開放される機能であり、患者がマイナンバーカードや健康保険証、お薬手帳等を持参できない場合であっても、氏名や住所等の情報から患者を特定し、本人の同意の下、薬剤情報・診療情報・特定健診等情報を閲覧することができる。2026年9月3日確認) mhlw.go.jp