台風や大雨で家が水につかったあと、多くの人がまず探すのが消毒剤です。汚れた水が入った家を、早くきれいにしたい。当然の気持ちだと思います。

けれど厚生労働省が浸水した家屋の住民向けに出している啓発資料は、表題からしてこう言い切っています。「清掃と乾燥が最も重要です」。消毒は、そのあとの話なのです。

そして清掃より、さらに前にやることがあります。

まず、戻ってよい状態かを確かめる

避難情報が続いている間や、建物の安全を確認できない間は戻りません。

戻れる状況になったら、片づけを始める前に、家の外と中の被害を写真で記録します。政府広報オンラインは、罹災証明書の取得や損害保険の請求に役立つとして、外は4方向から、浸水した場合は深さが分かるように、中は部屋ごとの全景と被害箇所の寄り、住宅設備や家電の状況も撮っておくよう案内しています。片づけてしまうと、もう撮れません。

電気とガスにも注意が要ります。停電していた家で急に電源を入れると、通電火災などの二次災害が起きる危険があります。ブレーカーがすべて切れているかを確認してから、順に入れていく手順が示されています。ガスは、においがないかを先に確かめ、ガス漏れのおそれがあれば窓を開け、換気扇や火は使いません。

浸水した配線や電気製品は使わない。ガス臭、建物の傾き、大きなひびなどがあれば作業を始めず、電力会社・ガス会社・自治体または専門家に相談してください。

作業を始める前に、装備と換気

保護具は、消毒のときだけでなく、泥出しの最初から必要です。

厚生労働省が挙げているのは、丈夫な手袋と底の厚い靴、長袖など肌の見えない服装、ゴーグルとマスクの着用、そして作業後の手洗いです。土ぼこりが目に入って結膜炎になったり、口から入ってのどや肺に炎症を起こすことがあるためです。作業中はドアと窓をあけて、しっかり換気します。

けがをしたら、流水で洗浄して消毒を。深い傷や汚れた傷は破傷風になる場合があるため、医師に相談するようにと書かれています。破傷風は、医療機関で適切な治療を行わないと死亡することもある病気です。

体調が悪い人や、安全を確保できない人は無理に作業せず、自治体へ相談してください。

泥を出して、乾かす。消毒はそれから

同省の資料は、消毒薬について「汚れを取りのぞいた上で使用しましょう」と書いています。まず汚泥を取り除き、しっかり乾燥させる。消毒はそのあとです。

見落としやすいのが、避難などで家を離れていた場合です。同省は、数日して自宅に戻ると、屋内にカビが発生していることがあると注意を促しています。水が引いたら終わり、ではないわけです。

消毒薬は、濃さも使い方も対象で違う

清掃と乾燥が済んで、そのうえで消毒をする場合。厚生労働省の一覧では、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤でも可)を、食器類・流し台・浴槽は0.02%、家具類・床は0.1%に薄めて使うとされています。

ただし、濃さだけを知っても安全に使えません。同じ資料は、対象ごとの手順も示しています。食器類などは洗剤と水で洗ったうえで、薄めた消毒液に5分間漬けるか消毒薬を含ませた布で拭き、そのあと水洗い・水拭きをして、よく乾燥させる。家具類や床は、泥などの汚れを洗い流すか水拭きして十分に乾燥させてから拭き、金属面や木面など色あせが気になる場所は水で2度拭きします。

汚染の程度がひどいときや、長時間浸水していたときは、できるだけ次亜塩素酸ナトリウムを使う。色あせや腐食で使えないものには、消毒用アルコール(70%以上のもの。火気のあるところでは使わない)か、0.1%に薄めた塩化ベンザルコニウムを使う、という整理になっています。

塩素系漂白剤は、酸性タイプと絶対に混ぜない

家庭用の塩素系漂白剤には、消費者庁の定めにより「まぜるな危険」「塩素系」の表示と、酸性タイプの製品と一緒に使う(混ぜる)と有害な塩素ガスが出て危険である旨、目に入ったらすぐ水で洗う旨、子供の手に触れないようにする旨、必ず換気を良くして使用する旨を表示することとされています。

製品ごとに原液の濃度が異なるため、薄める量も変わります。ラベルの「まぜるな危険」と使用上の注意を確認し、メーカーが示す方法で目的の濃度に薄めてください。手袋と保護眼鏡を着け、十分に換気して使います。

消石灰は、目に入ると失明の恐れ

昔から「浸水したら石灰をまく」と言われてきましたが、ここは注意が要ります。厚生労働省は、消石灰はアルカリ性で、肌や目に触れると炎症を起こすと説明しています。とくに、まいた消石灰が飛散して目に入ると、失明の恐れがあるとしています。目に入った場合は、すぐに大量の水で洗い流し、医療機関を受診してください。

自力でやりきらなくてよい

厚生労働省は、家屋の消毒についてどうしたらいいか分からない場合、市町村の窓口に相談するよう案内しています。

壁の内側まで水が入った、汚水や薬品が混じったおそれがある、広い範囲にカビが出ている、建物そのものが傷んでいる。こうした場合は、自力の作業だけで済ませようとせず、自治体や専門の事業者に相談してください。

晴れている今日、できること

被災後は必要な装備が手に入りにくくなることがあります。厚手のゴム手袋、底の厚い靴、ゴーグル、マスクを一組。防災用品と同じ場所にまとめておくだけで、その日の動き出しが変わります。

順番を知っているかどうかも、同じくらい効きます。まず安全を確認し、被害を記録する。保護具と換気を整えてから、泥出し・清掃・乾燥へ進む。消毒はそのあとに、製品表示に従って行う。この流れだけでも、頭に入れておく価値があります。


出典

  • 厚生労働省「被災した家屋での感染症対策」(「災害時には、感染症の拡大リスクが高まります」「家屋の清掃で感染症を発症する恐れもありますので、注意しましょう」と記載。下記3資料の掲載元。2026年8月9日 確認) mhlw.go.jp
  • 厚生労働省「清掃と乾燥が重要です」(表題に「清掃と乾燥が最も重要です」。消石灰について「アルカリ性であり、肌や目に触れると炎症を起こします」「まいた消石灰が飛散して目に入ると、大変危険です」「目に入った場合、失明する恐れがあるため、すぐに大量の水で洗い流し、医療機関を受診しましょう」と記載。2026年8月9日 確認) mhlw.go.jp
  • 厚生労働省「清掃作業時に注意してください」(「丈夫な手袋や底の厚い靴などを着用」「長袖など肌の見えない服装を着用」「ゴーグル・マスクを着用」「作業後には手洗い」、土ぼこりによる結膜炎・のどや肺の炎症、「特に深い傷や汚れた傷は破傷風になる場合があるため、医師に相談をしましょう」と記載。2026年8月9日 確認) mhlw.go.jp
  • 厚生労働省「浸水した家屋の感染症対策(消毒薬 対象と使い方)」(次亜塩素酸ナトリウムは食器類・流し台・浴槽が0.02%、家具類・床が0.1%に希釈。食器類等は「食器用洗剤と水で洗う」「希釈した消毒液に5分間漬けるか、消毒薬を含ませた布で拭き、その後、水洗い・水拭きする」「よく乾燥させる」、家具類・床は「泥などの汚れを洗い流すか、雑巾などで水拭きしてから、十分に乾燥させる」「調整した液を浸した布などでよく拭く」「金属面や木面など色あせが気になる場所は、水で2度拭きする」と記載。消毒用アルコールは70%以上・火気のあるところでは使用しない。塩化ベンザルコニウムは0.1%に希釈。「消毒薬は、汚れを取りのぞいた上で使用しましょう」「汚泥は取り除き、しっかり乾燥」「ドアと窓をあけて、しっかり換気」「数日して自宅に戻るときは、屋内にカビが発生していることがあります」「汚染の程度がひどい場合、長時間浸水していた場合は、できるだけ次亜塩素酸ナトリウムを使用する」と記載。2026年9月3日 確認) mhlw.go.jp
  • 厚生労働省「一般家屋や食品営業施設における浸水後の消毒の相談について」(「家屋が浸水した場合には、まずは、土砂撤去や十分な清掃及び乾燥を行うことが重要です」/家屋の消毒について分からない場合の市町村窓口への相談案内。2026年9月3日 確認) mhlw.go.jp
  • 政府広報オンライン「住まいが被害を受けたとき 最初にすること」(「被害状況を写真で記録する」/罹災証明書の取得や損害保険の請求に役立つ/家の外は4方向から・浸水の深さが分かるように、家の中は部屋ごとの全景・被害箇所の寄り・住宅設備や家電の被害状況も撮る/「停電していた場合、急に電源を入れると、通電火災などの二次災害が発生する危険があります」/ブレーカーを順に入れる手順/「ガス漏れがあると爆発や火災などの危険があります」「ガスのにおいがないか確認 ガス漏れのおそれがある場合は窓を開ける。換気扇や火は使わない」と記載。2026年9月3日 確認) gov-online.go.jp
  • 消費者庁「家庭用品品質表示法 雑貨工業品品質表示規程(住宅用又は家具用の洗浄剤等の表示)」(1.0ppm以上塩素ガスを発生するものについて「まぜるな 危険」「塩素系」の特別注意事項を表示すること/「酸性タイプの製品と一緒に使う(混ぜる)と有害な塩素ガスが出て危険である旨」「目に入った時は、すぐに水で洗う旨」「子供の手に触れないようにする旨」「必ず換気を良くして使用する旨」と記載。2026年9月3日 確認) caa.go.jp