火山の噴火というと、火口の近くの話に聞こえます。ところが内閣府(防災担当)は、富士山の噴火をモデルにして、火山灰が広い範囲に降ったときに何が起きるかを報告書にまとめています。読んでみると、書かれているのは火口から遠く離れた場所の暮らしの話でした。

厚さ0.3センチでも、雨が降れば停電しうる

この報告書の特徴は、火山灰が積もった厚さごとに、何がどうなるかを一覧にしているところです。しかも「雨なし・停電なし」と「雨あり・停電あり」の2枚に分けて整理されています。

雨が降ったほうの表には、たとえばこうあります。

  • 降雨時、0.3センチ以上で電線の碍子(がいし)の絶縁が下がり、停電が起こりうる
  • 停電した地域では浄水場や配水施設が止まり、断水が発生する
  • 携帯電話は、基地局の非常用発電の燃料が切れると電波が止まる。固定電話も使えなくなる(商用電源を使わない電話機なら使える)

0.3センチは3ミリです。わずかな厚みでも雨が加わると、電気が止まり、水が止まり、連絡手段が細るところまで進みます。同じ降灰量でも、天気次第で起きることが変わる、というのがこの表の読みどころです。

ただし、報告書はこの数字について、設備や実施される対策によって変わるものであり、対策を検討するために「発生しうる影響を推し量る目安」であると断っています。実際の噴火でこのとおりに影響が生じるとは限りません。3ミリ積もったら必ず停電する、という意味ではない、ということです。

車は、少しの降灰でも走りにくくなる

道路については、0.1センチ以上で車線などが見えにくくなり、速度が落ちるとされています。ここはまだ「走りにくくなる」段階で、乾いた状態で二輪駆動車が通行できなくなる目安は10センチ以上です。ただし厚さにかかわらず、視界不良で安全に走れなくなることもあります。太陽光発電のパネルは0.03センチ以上で発電量が減り、エアコンの室外機は5センチ以上で不具合が出るとされています。

つまり、灰が降っている間は、不要不急の運転を控えるのが基本です。動くかどうかは、自治体や道路管理者が出す情報に従ってください。

健康への影響としては、目・鼻・のど・気管支などに異常を生じることがあると書かれています。

基本は「できる限り自宅等に留まって生活を続ける」

では、灰が降り始めたらどう動くのか。内閣府が2025年(令和7年)3月に公表した「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」は、広域降灰に対する住民行動は「できる限り自宅等に留まって生活を継続すること」が基本としています。火山灰は噴石や溶岩流と違って急迫した命の危険が低いこと、首都圏の人口が非常に多いこと、噴火の予測に不確実性があることが、その理由として挙げられています。

ただし、これには例外があります。建物倒壊の危険がある場合、土石流のおそれがある地域、降灰に伴う社会活動の低下などで自助・共助による生活が続けられない人など、ただちに生命に危険が及ぶ場合は、避難などの行動が必要です。どちらに当たるかは、国や自治体が出す情報で判断することになります。平時のうちに、お住まいの地域のハザードマップと避難先を確かめておくと迷いません。

そして、自宅で生活を続けるためには、日頃からの十分な備蓄が要る、とも書かれています。次の話につながります。

備蓄は「1週間分、できればそれ以上」

では、どれだけ備えればよいのか。報告書は、首都直下地震対策でも推奨されている1週間分、可能であればそれ以上の備蓄と、あらかじめ避難先を検討しておくことを、住民に周知する必要があるとしています。

防災の備蓄は「最低3日、できれば1週間」と言われることが多いのですが、降灰ではまず1週間分を目安に、できればそれ以上、というのが資料の書き方です。「1週間そろえれば終わり」ではなく、そこが出発点だと受け取るのがよさそうです。

家で先に用意できるもの

以上を家庭の準備に置き換えると、地震の備えとほとんど重なります。

  • 飲料水と食料を1週間分(すでにある備蓄をそのまま使えます)
  • 生活用水(トイレや洗いものに使う水。飲料水とは分けて用意し、飲料水は容器の表示と期限に従います)
  • 停電と断水が同時に来る前提での、明かりと携帯トイレ
  • 電池式やスマートフォンとは別系統の情報源(充電手段を含む)
  • 目とのどを守るもの(防塵マスク、ゴーグルまたは眼鏡)
  • ほうきと、灰を入れる袋、屋外で使う履き物

新しく買い足すものは、多くありません。降灰のための備蓄をゼロから作る必要はなく、いまある地震の備えを1週間分まで伸ばすほうが現実的です。

灰が目に入ると痛み・充血・結膜炎などを起こすことがあり、埼玉県は対策としてゴーグルや眼鏡の着用と、コンタクトレンズを外すことを挙げています。呼吸器には防塵マスク、肌には長袖の衣服です。呼吸器の持病がある方は、特に不要な外出を控えてください。

灰を片づけるときにも注意があります。東京都の降灰特設サイトは、火山灰は水に濡れると固まりやすく、排水溝が詰まるおそれがあるので、排水溝に流さないようにと呼びかけています。掃除のときは、マスク・ゴーグル・長袖長ズボンを着けて、袋に集めてください。

なお、灰の捨て方は自治体ごとに決められています。降ったあとに慌てて調べることになるので、お住まいの市区町村の案内を一度見ておくと、そのときに迷いません。


出典

  • 内閣府(防災担当)大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ「大規模噴火時の広域降灰対策について ―首都圏における降灰の影響と対策― 〜富士山噴火をモデルケースに〜(報告)」令和2年4月(降灰による影響の閾値一覧【降雨なし・停電なし】【降雨あり・停電あり】、降雨時0.3cm以上での碍子の絶縁低下による停電、停電エリアでの浄水場・配水施設の運転停止による断水、携帯電話基地局の停波と固定電話の使用不能、道路0.1cm以上での視認障害、道路の乾燥時10cm以上での二輪駆動車の通行不能、太陽光発電0.03cm以上での発電量減少、空調室外機5cm以上での不具合、健康被害として目・鼻・のど・気管支等の異常、「1週間分、可能であればそれ以上の備蓄」と避難先の事前検討の周知、および閾値は施設・設備の状況や実施される対策により変動するもので、対策の検討のため発生しうる影響を推し量る目安であること、実際の噴火時にこのとおりに影響が生じるとは限らないことに留意するよう注記されていることを確認。2026年9月14日 確認) bousai.go.jp
  • 内閣府(防災担当)広報誌「ぼうさい」第114号「防災の動き 我が国における大規模噴火時の広域降灰対策」(「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を令和7年3月に公表したこと、被害の様相をステージ1〜4に区分したこと、「広域降灰に対する住民行動は『できる限り自宅等に留まって生活を継続すること』が基本となります」、ただし建物倒壊の危険がある場合・土石流の恐れがある地域・自助共助による生活が継続できない人等、直ちに生命に危険が及ぶ場合は避難等の行動を取る必要があること、自宅等で生活を継続するには日頃からの十分な備蓄等が重要であることを確認。2026年9月14日 確認) bousai.go.jp
  • 内閣府(防災担当)「広域降灰対策」(「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月28日公表)の概要版・本文・参考資料、およびリーフレット「火山灰への備え」の掲載を確認。これらのPDFは画像として作られており、こちらの環境では文字を取り出せなかったため、ガイドラインの内容は上記の内閣府広報誌の記述によります。2026年9月14日 確認) bousai.go.jp
  • 埼玉県「火山灰対策」(火山灰が健康に与える影響として呼吸器系への影響・目の症状・皮膚への刺激を挙げ、対策として防塵マスクの着用、ゴーグルや眼鏡の着用とコンタクトレンズを外すこと、長袖など肌を覆う衣服の着用を示していることを確認。2026年9月14日 確認) pref.saitama.lg.jp
  • 東京都「Tokyo富士山降灰特設サイト」(火山灰は水に濡れると固まりやすく排水溝が詰まる恐れがあるため排水溝に流さないこと、ほうきや火山灰を入れる袋などの清掃用具を準備すること、清掃の際はマスク・ゴーグル・長袖長ズボンを着用することを確認。2026年9月14日 確認) fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp