「まだまだ序の口」「今日は白星発進」「それは勇み足だったね」。どれも日常やニュースで普通に使われる言葉ですが、すべて相撲から生まれた言葉です。相撲の語彙は、私たちの会話に想像以上に深く溶け込んでいます。今回は相撲由来の日常語を6つ、本来の意味とともに紹介します。
序の口(じょのくち)
「暑いといってもまだ序の口だ」のように、「物事はまだ始まったばかり」という意味で使われます。本来は大相撲の番付の最下位の地位「序ノ口」のこと。多くの力士は前相撲を経て序ノ口の番付に載り、そこから序二段、三段目へと昇っていきます(アマチュア相撲の実績によって三段目や幕下から始める「付出し」などの例外もあります)。※ 昇進の順序と付出しの扱いは、時期によって規定が変わることがあります。つまり序の口は「入口に立ったばかり」の位置。そこから頂点の横綱までの遠い道のりが、この言葉の「まだまだこれから」という含みを支えています。
白星・黒星(しろぼし・くろぼし)
勝ちが白星、負けが黒星。相撲の星取表で、勝ちを白い丸、負けを黒い丸で記録したことに由来します。ここから転じて、スポーツ全般や仕事の成果まで「初白星」「連敗で黒星が込む」のように使われるようになりました。「金星(きんぼし)」も相撲用語で、平幕の力士が横綱を破る大殊勲のこと。日常でも「格上相手の金星」のように、番狂わせの勝利を指して使われます。
軍配が上がる(ぐんばいがあがる)
競い合いの末に、一方が勝者と認められることです。「価格競争では新製品に軍配が上がった」のように使います。軍配とは、行司が持つあのうちわ型の道具「軍配団扇(ぐんばいうちわ)」のこと。もとは戦国武将が軍を指揮するのに使った道具で、それが相撲の勝敗判定に受け継がれました。行司が勝った力士の側に軍配をさっと上げる所作が、そのまま「勝ちの宣告」の意味になったわけです。
独り相撲(ひとりずもう)
相手は何とも思っていないのに、一人で意気込んで空回りすることです。「ライバル視していたが、独り相撲だった」のように使います。もとは、二人で取っているかのような所作を一人で演じてみせる神事や芸能に由来するという説があります。そこから現在のような「相手もいないのに一人で意気込むこと」のたとえへと移っていったとされますが、いつごろ移ったかを含め、由来には諸説あります。ちょっと切ない転身ですが、誰にでも身に覚えのある状況を一言で言い当てる、便利な言葉です。
土俵際(どひょうぎわ)・待ったなし
土俵際は、あと一歩で敗れる瀬戸際のこと。「資金繰りは土俵際だ」のように使います。土俵を囲む俵の外に足が出れば負け。土俵際まで押し込まれた力士は、まさに崖っぷちです。そこから粘って逆転する「うっちゃり」も、日常語として「土壇場の逆転」の意味で使われます。「待ったなし」は、立ち合いのやり直し(待った)が許されない状態のこと。転じて「先送りできない差し迫った状況」を指します。「少子化対策は待ったなしだ」のように、ニュースの見出しの常連です。
勇み足(いさみあし)
相手を土俵際まで攻め込みながら、勢い余って自分の足が先に土俵の外に出てしまう負け方です。転じて、調子に乗って行き過ぎ、失敗することのたとえになりました。「取材前に結果を発表してしまうとは、勇み足だったね」のように使います。攻めていたのに自滅する、という含みが大事なところで、単なるミスではなく「積極性ゆえの失敗」に使うのがぴったりの言葉です。
土俵は言葉の産地
番付、星取、軍配。江戸時代から人々に親しまれてきた相撲の語彙は、今も日常の言葉として使われています。ほかにも「がっぷり四つ」「仕切り直し」など、探し始めると会話の中に相撲由来の表現がいくつも見つかります。何気ない一言の中に、力士たちの攻防が眠っています。
日本語の由来に強くなりたい方は、毎日1問のことわざパズル「ことばあて」もどうぞ。
出典・注記
- 日本相撲協会「決まり手八十二手 勇み足」(「相手を土俵際に詰めながら、勢い余って自分の足を先に土俵外へ出してしまい、相手に勝ち星を与えてしまう事」と記載。技ではなく「勝負結果」に分類されています。2026年8月5日 確認) sumo.or.jp
- 各語の意味・用法は、国語辞典類に広く共通して記載されている範囲の説明にとどめています。特定の辞典の記述を引用したものではありません。
- 番付の階級と昇進の順序、白星・黒星や軍配の由来については、当社で確認できた範囲では、引用できる形の一次資料を特定できませんでした。(日本相撲協会の公式サイトのうち、用語解説にあたるページを当社から開くことができませんでした。)辞典類に共通して見られる説明の範囲で記述しています。
- 独り相撲の由来と、現在の比喩的な用法へ移った時期には諸説あり、本文でも断定を避けています。