物価の話題が尽きない昨今、昔の人がお金とどう付き合ってきたかを、ことわざから覗いてみましょう。お金のことわざや熟語には、時代や地域を越えて伝わってきたさまざまな知恵が詰まっています。セールの前に読むと、財布の紐がきゅっと締まるかもしれません。

安物買いの銭失い(やすものがいのぜにうしない)

安いからと飛びついて買うと、品質が悪くてすぐ壊れ、買い替えや修理でかえって高くつく、という戒めです。いろはかるたの札のひとつとして紹介されることもありますが、いろはかるたは版や地域(江戸・上方・尾張など)によって札の語句が異なり、確定した一覧があるわけではありません。現代の買い物にもそのまま通じますが、面白いのは「安くて良いもの」が増えた現代でも、この言葉が生き残っていること。値段だけを基準に選ぶ買い方への警告、と読むのが今風の解釈でしょう。セール価格に手が伸びたら、「使う回数」で割り算してから決めても遅くありません。

時は金なり(ときはかねなり)

時間はお金と同じくらい貴重だから無駄にするな、という意味です。これは日本古来のことわざではなく、英語の「Time is money」の翻訳とされています。この言い回しは、アメリカの政治家・発明家ベンジャミン・フランクリンが1748年に書いた『Advice to a Young Tradesman』(若い商人への助言)の冒頭に "Remember that Time is Money."(時は金なりということを忘れるな)として出てきます。彼はそこで、一日十シリング稼げる人が半日を遊んで過ごせば、使った小銭だけが損ではなく、稼げたはずのお金も失っている、と説きました。ただし、フランクリンがこの言い回しを最初に言い出した人なのかどうかまでは、確認できていません。日本では「時は金なり」と訳され、時間を大切にする教えとして広く使われています。

悪銭身につかず(あくせんみにつかず)

不正な手段で得たお金は、とかく無駄に使ってしまい、結局残らない、という意味です。得方のよくないお金は身につかない、という戒めとして使われます。あぶく銭ほど手元に残らない、という感覚は、今も昔も変わらないのかもしれません。

爪に火をともす(つめにひをともす)

爪に火をともして明かりにするほど、出費を惜しむ様子を表した言葉です。そこから、ひどく倹約することや、つましい暮らしをすることのたとえになりました。「爪に火をともすようにして学費を貯めた」のように、涙ぐましい節約の文脈で使います。賞賛にも皮肉にもなる言葉です。電気代の節約に苦心する現代の私たちも、あまり笑えないかもしれません。

損して得取れ(そんしてとくとれ)

目先の損を受け入れて、将来の大きな利益につなげよ、という商人の知恵です。無料サンプルや初回割引など、今日の出費を先々の利益につなげようとする施策にも通じる考え方です。大事なのは「損」が投資になっている計算があること。ただ安売りするだけでは、それこそ銭失いです。長い付き合いを見据えて今日は譲る、という判断の背中を押してくれる言葉です。

一攫千金(いっかくせんきん)

「一攫」はひとつかみ、「千金」は大金のこと。一度に、たやすく大きな利益を得る意味で使われます。「一攫千金を夢見て宝くじを買う」のように使います。夢のある響きの一方で、こつこつ蓄える生き方とは対照的な言葉です。

ことわざは庶民の家計簿

安物への警戒、時間の値段、悪銭の行方、倹約、先行投資。並べてみると、そのまま現代のマネー記事の目次になりそうです。家計を見直すとき、昔の知恵を一つまみ加えてみてはいかがでしょう。


ことわざの知恵を毎日少しずつ。ことわざパズル「ことばあて」もどうぞ。


出典・注記

  • 「時は金なり」の英語原文は、ベンジャミン・フランクリン『Advice to a Young Tradesman, Written by an Old One』(1748年)の冒頭にある "Remember that Time is Money." です。こちらは、テキサス大学オースティン校が公開している同文の全文(下記)で本文を確認しました。著作権の保護期間はとうに過ぎており、引用に問題はありません。
    • minio.la.utexas.edu
    • ただし、この言い回しをフランクリンが最初に用いたのかどうかは、確認できていません。より古い用例があるとする説もありますが、その原典をこちらで確かめられていないため、本文でも「最初に言い出した人かは分からない」という書き方にとどめています。
  • 「安物買いの銭失い」がいろはかるたの札にあることは広く紹介されていますが、こちらでは引用できる形の資料を特定できませんでした。そのため本文でも「江戸いろはかるたに収められている」という断定をやめ、諸説ある事柄として書いています。いろはかるたに版・地域による違いがあることは、下記の調べもの事例(国立国会図書館 レファレンス協同データベース)からたどれます。札の語句の一覧は、『岩波いろはカルタ辞典』『歌留多』(平凡社)などの図書にあたる必要があります。
  • 「悪銭身につかず」「爪に火をともす」「損して得取れ」「一攫千金」の意味・用法は、国語辞典・四字熟語辞典類に広く共通して記載されている範囲の説明にとどめています。特定の辞典の記述を引用したものではありません。
  • 本文の現代的な読み替え(「値段だけを基準に選ぶ買い方への警告」「損が投資になっている計算」など)は、当サイトによる解釈であり、出典に基づく記述ではありません。