家庭備蓄の記事は、たいてい水と食料の話から始まります。1日3リットル、3日分から1週間分。ただ、赤ちゃんがいる家では、その前に考えておくことがあります。災害のあいだ、授乳をどう続けるかです。

はじめにお断りしておきます。この記事は、いまの授乳のしかたを災害だけを理由に変える、という意味ではありません。母乳で授乳しているご家庭は、その継続が基本です。国が自治体に液体ミルクの活用を求めた事務連絡も、母子の状況等に応じてという条件つきですし、記事の後半で紹介する三重県の備蓄方針も、母乳栄養のみの乳児分は備蓄量から除いています。育児用ミルクを使っている、あるいは必要になりそうなご家庭が、ふだん使っている製品と与え方をそのまま備えておく——という話として読んでください。授乳方法を変えるかどうか、量をどうするかは、かかりつけの医師・助産師等にご相談ください。

断水と停電で、難しくなること

内閣府と厚生労働省が連名で自治体あてに出した事務連絡(令和元年10月25日)は、こう書いています。

断水や停電等により、授乳に当たっての清潔な環境等が確保できない可能性も考えられます

粉ミルクを飲ませるには、衛生的な水と、清潔な哺乳瓶と、使ったあとの洗浄・消毒が要ります。断水や停電、燃料の不足が重なると、この手順をふだんどおりに踏むことが難しくなる可能性があります。 資料も「必ず全部が同時に止まる」と言っているわけではありませんが、ふだんは意識しない手順が、災害のときだけ急に難しくなる、ということです。

なお、粉ミルクは「お湯があればよい」というものではありません。消費者庁は、哺乳ビン等で乳児用調製粉乳を調乳する際、一度沸騰させた後、温度を70℃以上に保った水を使用することが推奨されていると案内しています。調乳は、製品の表示と公的な調乳の案内に従い、衛生的な水で行ってください。

「水を使わずに授乳できる」という一点

同じ事務連絡は、自治体に対して、ライフラインが断絶された場合においても水等を使用せずに授乳できる乳児用液体ミルクを、母子の状況に応じて活用するよう求めています。

液体ミルクの利点は、味や栄養の話ではなく、この一点です。調乳の手順そのものが要らないので、断水中でも停電中でも授乳に使えます。

ただし、開けてそのまま口に運べばよい、という意味ではありません。液体ミルクにも、製品ごとに決められた使用方法があります。紙パックや缶の製品は清潔な哺乳瓶などに移して与えること、水で薄めないこと、開封したらすぐに使い、飲み残しは与えないこと。容器に破損やふくらみがあるもの、中身の色・におい・味に異常があるものは使わないこと。これらは製品の表示に書かれていますので、買ったときに一度読んでおくと、いざというときに迷いません。赤ちゃんが口にするものです。表示の確認は、備蓄そのものと同じくらい大事な手順です。

注ぐ先の容器も要る

もうひとつ、見落とされやすいものがあります。注ぐ先の容器です。

同じ資料には、使い捨て哺乳瓶は洗浄や消毒が不要であり、急な停電や断水、地震などの災害時に備えていればすぐに使える、と書かれています。逆に言えば、ふだんの哺乳瓶しかない家では、1回使ったあとに洗えないところで止まってしまいます。

この事務連絡が、平時から備えるものとして名指ししているのは、育児用ミルク(粉ミルクまたは液体ミルク)・使い捨て哺乳瓶・消毒剤などの授乳用品です。ただし、この文書の宛先は都道府県・保健所設置市・特別区の担当部署で、すべての家庭にこの3つを一律に買いそろえるよう求めたものではありません。自治体向けの資料が例示している物資として受け取り、家庭では、ふだんの授乳方法、赤ちゃんの月齢や体調、製品の使用方法に合わせて、医師・助産師等にも相談しながら選んでください。

期限切れを出さずに回す

液体ミルクにも粉ミルクにも賞味期限があり、しかも製品によってかなり違います。買った箱を押し入れに入れて忘れると、いざというときに期限が切れています。

事務連絡はここでも、ローリングストックをすすめています。

物資を特別に備えるのではなく、日頃から食べているものや使っているものを少し多めに購入し、食べた分を補充しながら日常的に備蓄すること

つまり、ふだんの授乳で普通に使い、使った分を買い足す。これなら期限が切れる前に入れ替わります。買うときに、製品の表示で賞味期限を確かめておくと、入れ替えの間隔をつかみやすくなります。

支援が届くまでを、どう考えるか

自治体も備え始めています。三重県は令和元年7月から8月にかけて、乳児用液体ミルク610缶を広域防災拠点に備蓄しました。都道府県が現物で備蓄したのは、これが全国で初めてです。大阪府箕面市も同じころ、公立保育所に常時600個を置き、ふだん使いながら補充する形をとっています。

国も動きました。令和元年の台風第19号では、避難所へ液体ミルクがプッシュ型で送られ、10月24日時点で宮城県200個、福島県312個、茨城県168個、長野県96個という実績が記録されています。いずれも、令和元年の資料に載る当時の事例・実績です。

その三重県の備蓄方針には、国からのプッシュ型支援が発災後4日目に届けられることを踏まえて備蓄を組み立てた、と書かれています。ただしこれは、南海トラフ地震の具体計画を踏まえて三重県が令和元年時点で採用した想定であって、どの災害でも、どの地域でも、必要な物が4日目に各家庭へ届くことを保証するものではありません。 到着の時期も品目も数量も、災害と地域によって変わります。だからこそ、ふだんの授乳方法に合う備えを、無理のない範囲で手元に置いておく意味があります。

今日できること

棚を作り直す必要はありません。今日は、確かめるだけで十分です。

ふだんの授乳を災害のあいだも続けるとしたら、何が要るか。 育児用ミルクを使っているご家庭なら、いま家にあるものが製品の表示どおりで何回分になるか。哺乳瓶を洗えない状況で、どう与えるつもりか。足りないと感じたら、次の買い物で少し多めにするところから始められます。

哺乳用具の洗浄・消毒が難しいときの与え方については、記事を読んで自己流で試すのではなく、かかりつけの医師・助産師、お住まいの市区町村の母子保健の窓口にご相談ください。赤ちゃんの月齢や体調によって、適した方法が変わります。


出典

  • 内閣府政策統括官(防災担当)・内閣府男女共同参画局総務課・厚生労働省子ども家庭局母子保健課「災害時における授乳の支援並びに母子に必要となる物資の備蓄及び活用について」(令和元年10月25日 事務連絡。宛先が都道府県・保健所設置市・特別区の担当部署であること、断水や停電等により授乳に当たっての清潔な環境等が確保できない可能性があること、ライフラインが断絶された場合においても水等を使用せずに授乳できる乳児用液体ミルクを母子の状況等に応じて活用するよう求めていること、平時から育児用ミルク及び使い捨て哺乳瓶や消毒剤等の授乳用品の備蓄を進めるよう求めていること、ローリングストックの定義、使い捨て哺乳瓶は洗浄や消毒が不要であること、別添に三重県の乳児用液体ミルク610缶の備蓄〈都道府県初〉・箕面市の常時600個・令和元年台風第19号のプッシュ型支援実績〈10月24日現在、宮城県200個・福島県312個・茨城県168個・長野県96個〉が記載されていること、三重県備蓄・調達基本方針〈令和元年6月〉が南海トラフ地震の具体計画に基づくものであり、母乳栄養のみの乳児分を除くとしていること、国からのプッシュ型支援が発災後4日目に届けられることを踏まえた三重県の備蓄の考え方であることを確認。2026年9月19日 確認) 災害時における授乳の支援…の備蓄及び活用について
  • 消費者庁「Vol.652 お酒などによる誤った調乳での事故に注意」(乳児用調製粉乳の安全な調乳方法等に関するガイドラインで、哺乳ビン等で乳児用調製粉乳を調乳する際に「一度沸騰させた後、温度を70℃以上に保った水」を使用することが推奨されていると紹介していることを確認。2026年9月19日 確認) Vol.652 お酒など…った調乳での事故に注意
  • 消費者庁「乳児用液体ミルクってなに?」(液体ミルクの使用方法に関する案内。画像として作られたPDFのため、本文を文字として取り出すことができませんでした。掲載の所在のみ2026年9月19日に確認しています。実際の使用方法は、お手元の製品の表示と原本をご確認ください) 乳児用液体ミルクってなに?
  • 農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」掲載ページ(一般版〈平成31年3月〉と、乳幼児・高齢者・慢性疾患・食物アレルギーの方などに向けた「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」〈令和8年9月〉を掲載していることを確認。PDF本体の内容は今回の記事の根拠として使用していません。2026年9月19日 確認) 災害時に備えた食品ストックガイド